web用『君の名は。』タイトル画

映画史に輝く記録的なヒット作『君の名は。』。
胸の熱くなる要素が詰まっていたが、科学的にも興味深い映画であった。地球と彗星の関係というものがすごくよくわかるのだ。

お話のなかでは、1200年前に彗星の破片が落下してできたクレーターに水が溜まって湖となり、湖を中心に街ができていた。これは現実にあり得ることなのか。
クレーターから生まれた湖を「クレーター湖」といい、世界各地にある。たとえば、ドイツのネルトリンゲンという直径1㎞の城壁に囲まれた町は、1500万年前にできた直径24㎞のクレーターのなかにある。
また、長野県の御池山クレーター(湖ではない)は、緑の木々に覆われ、ハイキングコースも整備されている。世界に180ほどあるクレーターには、公園や観光地になっているものもある。

ネルトリンゲンの市民たちも、御池山でハイキングを楽しむ人たちも「またいつかここに隕石が落ちてくるかも」とは考えないだろう。それも当然だ。
実は、人類の歴史が始まってから形成されたクレーターは、世界に一つしかない。1996年、南米のホンジュラスに直径5mの隕石が落ちて、直径50mのクレーターを作った。これが、形成の記録が残る唯一のクレーターなのだ。
すると、1200年前に生まれたという劇中の湖は、人類の歴史に残る貴重なものだったことになる。世界遺産に登録されても不思議ではない。

悲劇は同じ日に起こる

では、1200年前に湖を作った彗星が、再び同じ場所に破片を落とすことがあるのだろうか。
彗星は、氷と塵でできていて、太陽に近づいては遠ざかる運動を繰り返している。地球は、ほぼ完全な円を描いて回っているが、彗星は、細長い楕円を描いている。
彗星の多くは、太陽に近づくときに、地球軌道の内側に入り込む。このため、彗星の軌道と地球の軌道は、イラストのように2つの点で交わる。その交点に地球が来たとき、たまたま、彗星もそこにやってくれば、両者はぶつかることになる。
では、どんな場合に「地球が交点に来たとき、彗星もそこに来た!」という事態が起こるのか。話を単純にするために、2つの交点のうち一つだけに注目し、それを「警戒点」と名づけよう。われながら、不吉な名前であるが。

地球も彗星も、それぞれ同じ軌道を回り続けるから、警戒点はいつも同じ場所だ。
地球は、1年かけて太陽を一周しているので、うるう年などの細かい要素を無視すれば、毎年同じ日に警戒点を通過する。たとえば、2013年10月3日に地球が「ある彗星との警戒点」を通過するとしたら、毎年10月3日にその警戒点を通過するのだ。

一方、彗星はどうか。たとえば、ハレー彗星の周期は75年4ヵ月。ハレー彗星がある年に警戒点を通過したら、次に警戒点を通過するのは75年4ヵ月後になる。その2つのタイミングにおいて、地球の位置は4ヵ月分ズレているから、ハレー彗星のような彗星は、2回続けて地球のすぐ近くを通ることはないのである。

すると、2回続けて地球のすぐ近くを通過するのは、どのような彗星か?
それは、周期を「年」で表したとき、小数点以下のない彗星。つまり周期が75年ピッタリとか、832年ジャストとか。つまり、同じ彗星が1200年前に地球のすぐそばを通過したとするなら、その日も10月3日だったはずである。

ぴったり1200年周期!

そのうえ、破片の落ちた場所まで1200年前と同じだった場合、それは何を意味するか?

地球は1日に一回の自転をしているから、地球上の一つの場所は、毎年、同じ日の同じ時刻に、宇宙から見て同じ場所に来る。ということは、1200年前も破片が同じ場所に落ちたとすれば、落下の時刻まで同じだったことになる。
2013年に破片が落ちたのが10月3日20時42分だとすると、1200年前に落ちたのも、10月3日20時42分だったはず。
さらに、地球は太陽のまわりを秒速30㎞で回っているので、1秒でもズレていたら、30㎞ほど離れた場所に落ちたはずだ。つまり、この彗星の周期は、秒単位まで1200年なのだ。

うるう年などを考慮に入れると、話は少し複雑になるけど、それでも同じ彗星の破片が同じ地点に落ちるのは、彗星の周期が、秒の単位に至るまでキッカリ「1200年」だった場合だけということだ。なんという運命のいたずらであろうか……。

web用『君の名は。』図A

そう思うと、ますます切ない『君の名は。』である。
でも、天体の話として考えるとまことに興味深いことも事実なのだ。いろいろな意味で、すごい映画であった。【了】

本文・柳田理科雄
イラスト・近藤ゆたか