web用『ヒロアカ』焦凍タイトル画

『僕のヒーローアカデミア』の轟焦凍は人気者で、コミックス第7巻の「第1回キャラクター人気投票」でも、第2位を獲得している。だが、彼には影がある。

焦凍の“個性”は、半冷半燃だ。右手であらゆるものを凍らせ、左手からは灼熱の炎を出せる。
この両極端な能力は、それぞれ母親と父親から受け継いだもの。父は、オールマイトに次ぐ№2ヒーロー・エンデヴァー。そのエンデヴァーは、オールマイトに勝とうとするあまり、氷を出す“個性”の女性と強引に結婚して、計画どおり半冷半熱の焦凍をもうけたのだ。
焦凍はヒーローとしての英才教育を施されるが、この状況に母親は心を病んでしまった。焦凍の左の顔には火傷の跡があるが、精神的に追い詰められた母親が、彼の左顔に煮え湯をかけたときのものだという。

こういうツラい家庭環境が、焦凍に暗い影を落としているのだ。そんな彼に、筆者が人生の先輩として言えることは……と考えてみたけど、何一つありません。とほほほ、わしも修練が足りんのう。
ただ、科学的な視点からは、声を大にして言いたいことがある。焦凍のこの“個性”は、ヒジョ~にナットクできる!

凍らせ能力の問題点

轟焦凍がその“個性”を初めて見せたのは、屋内対人戦闘訓練のときだった。焦凍は相手の足を床に凍りつかせて勝利。そして、左手から弱い炎を出して解凍してやった。これに冒頭のナレーションがこう続いた。
右で凍らし 左で燃やす! 範囲も温度も未知数!! 化け物かよ!!
「凍らす」と「燃やす」。右手と左手で、まったく逆のことができるのだ。ナレーションは「化け物かよ!!」と驚いているし、確かにそんな印象を受けるが、はたしてそうだろうか。

マンガやアニメには、空中から雪や氷を出したり、海を凍らせたり……など「氷雪能力」を持った人々がたくさんいる。
空気中の水蒸気を凍らせるにも、海を凍らせるにも、熱を奪わなければならない。冷蔵庫は裏側や側面から熱を放出し、クーラーは室外機から熱風を噴き出すが、そうしなければ自分自身の温度が上昇してしまうからだ。
同じ問題が、マンガやアニメの「雪を出したり海を凍らせたりするキャラ」にも降りかかるはずである。奪った熱を体にためると、体温が上がる。体に負担がかかるし、氷雪系の技も出せなくなるだろう。では、その熱をどこに捨てるのか? 不用意に捨てると、捨てたところが灼熱地獄に……。
科学的に考えると、そういった問題が氷雪系のキャラにはつきまとうのだ。

web用『ヒロアカ』焦凍図A

その点、焦凍はどうだろう? そう。奪った熱の行方がハッキリしている。
右手で氷を作るために奪った熱を、左手から炎を出すことで、きちんと放出している! 熱の収支がヒジョーに明確なのである。すばらしい!

凍らせた分、熱もすごい!

この仕組みから考えると、氷をたくさん作るほど、大量の熱を奪うことになり、放出する炎も強力になるだろう。実際に、威力はどれほどか。
気温が20℃のとき、1㎏の氷を作るには、右手で625キロカロリーの熱を奪わなければならない。
つまり焦凍が1㎏の氷を作ったら、それによって彼は、左手で625キロカロリーの炎の攻撃ができるのだ。これは爆薬625g分(ダイナマイト3本強)!

しかも、焦凍が作る氷は、1㎏どころではない。
瀬呂範太との対戦では、体育館のドームを突き破るほどの氷を作り、範太を氷漬けにした。画面で測ると、氷の重量は推定3600t!
この巨大な氷を作るために、奪った熱は23億キロカロリー=爆薬2300t分だ。このエネルギーを一気に左手から放てば、半径1㎞以内が爆風で吹き飛ぶ!

しかし焦凍は、この熱を攻撃には使わなかった。父・エンデヴァーに反発心を抱き、炎の“個性”は戦いでは使わないと決意していたのだ。
気持ちはわかるが、焦凍くん、奪った23億キロカロリーの熱は、すぐに放出しないと体温が激烈に上がるよ。
キミの体重が60㎏の場合、氷を作ることで奪った熱23億カロリーを体内に溜め込んでいたら、体温は4600万℃に……!

そう心配して、マンガのコマをよく見ると、焦凍は氷を右手の熱で範太の氷を溶かしてやっている。あー優しいヤツだなあ。
そしてそれは、自分の身のためでもある。できれば、もっとすごい勢いで熱を放出したほうがいいと思うが……。

その後、焦凍は出久との戦いを経て、両親へのわだかまりも薄れ、左手の炎の“個性”も使うようになった。
またコミックス9巻の「THE・個性伸ばし訓練 ちょっと補足のコーナー」には、焦凍についてこうある。
「熱湯に浸かりながら氷結を続けています。連続使用によって体が冷えてしまうのを防ぎながら続けることで、体が氷結に慣れていきます。また、湯の温度を一定に保つよう左側も使っています。これは炎熱の温度調整を可能にする為の試み。彼の“個性”は伸ばしていけば同時使用も夢ではないでしょう」。

同時に使えるようになったら、ますます理想的だ。体内の熱の流れはスムーズになり、氷と炎の強力な攻撃をいつまでも続けることができる。
父親との確執を完全に克服したとき、焦凍はめちゃくちゃ強くなるだろう。彼の今後にますます注目だ。【了】

文・柳田理科雄
イラスト・近藤ゆたか