web用『ドラクエ』ルーラタイトル画

『ドラゴンクエスト』には、いろいろ便利な呪文が出てくるけど、科学的にヒジョ~に興味深いのが「ルーラ」である。
一度行ったことのある場所なら、「ルーラ」と唱えるだけで、一瞬で行けるのだ! スバラシイ!

これが面白いと思うのは、「ワープ」や「どこでもドア」のような瞬間移動ではないことだ。
ゲーム画面で、呪文のなかから「ルーラ」を選び、行き先の一覧から目的地を選ぶと「ピロリン♪」と音がして、勇者はびゅーんと真上に飛んでいく。画面が暗転し、目的地に切り変わると、また「ピロリン♪」と音がして、今度は真上からしゅたっと着地する。
そして、ダンジョンや建物のなかで「ルーラ」を使うと、勇者は飛び上がりはするものの、直後に天井に頭をぶつけ、ドタッと落ちてくる。

つまり、この呪文の効果は「出発点から目的地へ一瞬で行ける」のではなく「ものすごい速さで空を飛んで目的に場所に行く」ことらしい。
とても楽しそうだが、科学的に考えるとどうなるのだろうか。

どこへ行くにも、所要時間は3秒!

『ドラクエ』の長い歴史のなかで、「ルーラ」もさまざまなバージョンが作られてきた。
初期のゲームでは、呪文を選択すると、「ピロリン♪」の直後に、びゅーんびゅーんと独特の電子音を響かせて飛んでいっていた。画面が切り替わって着地するまでに要する時間は、わずかに3秒!

ところが、最近のバージョンだと、呪文を選択すると、勇者は右手を高く掲げ、全身から光を放ちつつ、一瞬ふわりと宙に浮き、その後にシュッバーッと飛んでいく。やたらとカッコいい。
ただし、随分と時間が長くなって、途中で場面が切り替わって、目的地に着くまで20秒もかかっている。うーん、進化したのか退化したのかビミョー……。

ここでは「ルーラ」のイメージを作った初期のバージョンで考えてみよう。すなわち「どこに行くにも3秒」というスタイルだ。

これはすごい話である。近所に行くにも、遠くに行くにも、かかる時間は同じ3秒! 
呪文なのだから、移動のエネルギー源や、飛べる理由は問うまい。それでも「一定の時間をかけて空間を飛んでいく」というのは、きわめて物理的な現象だ。
そしてこの場合、気になるのは「どんな軌道を描いて飛ぶか」である。

空気抵抗を無視すれば、重力以外の力(翼に受ける空気の力やエンジンなどの力)が働かないとき、物体は「放物線」の軌道を描く。そこで「ルーラ」と唱えた勇者たちも、放物線を描くと考えたらどうなるだろうか。

放物線運動は、重力に身を任せる運動である。したがって、落下している最中や、ブランコで折り返す瞬間のように、無重力状態になる。実際には重力は働いているのだが、その重力のなすがままに運動すると、重力を感じなくなるのだ。何の力も受けず、リラックスして飛んで行けるわけで、これは嬉しい話である。

どこに行くにも、高度は11m!

ただし、科学的に考えると、不安な部分もある。
放物線運動の大きな特徴は、上昇する高さが滞空時間だけで決まること。水平に1m飛ぶ場合でも、100㎞飛ぶ場合でも、滞空時間が同じなら、上昇する高さは同じ、ということだ。

では、滞空時間3秒ルーラの場合、どれほど上昇するのか?
滞空時間が3秒ということは、1.5秒上昇して、1.5秒落下することになる。そして、この場合の最大高度は11m。どこに行く場合でも、必ずこの高度になる。

筆者が気になるのは、この点だ。100m先まで飛んでいくのであれば、高度11mでも「そんなもんかな」という気がするが、100㎞離れたところまで飛ぶのに、11mまでしか上昇しないって、なんか怖くないですか。
11mというのは、3階建てのビルよりは高いが、4階建てよりは低いというくらい。
もし軌道上に4階建て以上の建物でもあったら、一巻の終わりだろう。放物線運動中に自分の力で軌道を変えることはできないから、ビターンと衝突!
想像するだけでメチャクチャ痛そうだ。

また、時間は3秒と決まってるのだから、遠くに行くほど飛行のスピードは速くなる。
移動距離1㎞なら、1000m÷3秒=秒速333mで、およそマッハ1!
移動距離10㎞なら、10000m÷3秒=秒速3333mで、およそマッハ10!
スバラシイともいえるが、4階建て以上の建物に激突するとしたら、スピードが速いほど大きなダメージを受ける。
マッハ10でビルにビターンとぶつかったら、命はあるかなあ……。
便利そうだけど、それだけにキケンも大きい呪文である。科学的にはまったくナットクできる話なんだけど。【了】

web用『ドラクエ』ルーラ図A

本文・柳田理科雄
イラスト・近藤ゆたか