web用キャプ翼スカイラブタイトル画

世界の多くのサッカー選手が子どもの頃に『キャプテン翼』を愛読したという。この作品でサッカーの面白さに魅せられ、プロの道を目指した人がたくさんいるというのだから、大変なことだ。

すると、にわかに心配になるのが「スカイラブハリケーン」である。すごい技が続出する『キャプ翼』の世界でも、スカイラブハリケーンは「やっていいの、それ!?」と聞きたくなるような技なのだ。筆者はまだスカイラブハリケーンを実践した選手を知らないが、ひょっとしたら地球の裏側あたりでは盛んに行われているのかも……?

スカイラブハリケーンを編み出したのは、立花和夫と立花政夫の双子の兄弟。彼らがこの技を編み出したのは、中学生のときだ。
政夫が仰向けになり、足を深く曲げる。和夫がその足の裏に飛び乗り、両足をぴったり合わせた状態から、互いの足を蹴り合う。すると、政夫は肩から下が地面から離れるほど伸び上がり、和夫は高々と飛び上がる!
マンガだから誇張表現かもしれないが、なんか10mほども飛び上がっていたような気も……。

こんな技が人間に実現可能なのだろうか!? ここでは、この問題を考えてみよう。

何が増強されるのか

スカイラブハリケーン最大の特色は、その跳躍の高さである。
「2人分の脚力で1人が飛ぶのだから、2倍高く飛べるのか!?」という気もするが、冷静に考えるとそうではない。
たとえば、3tの重量を持ち上げられるジャッキが2つあったとして、これを上下に重ねても、6tの力が出せるわけではない。ジャッキ2つで力が2倍になるのは、横に並べたときだ。

同じように、上下に並んだ立花兄弟も、脚力が合算されることはない。
なのに、なぜ高く飛べるのか。ここでは、政夫が土台となって和夫を蹴り上げる場合について考えてみよう。

スカイラブハリケーンの利点は、科学的には「距離が稼げる」ことだ。ボールを投げ上げるとき、大きなモーションで投げたほうが高く投げられる。これは「エネルギー=力×距離」という関係があるからで、スカイラブハリケーンも、政夫が蹴り上げることによって和夫が大きく動くから、高く飛べるのだ。

2人の動きがよくわかるコマで確認すると、和夫は政夫の足の上で、カカトがお尻につきそうなほど膝を深く曲げている。中学時代の2人の身長は163㎝だから、この体勢からジャンプすると、離陸するまでに体の重心は50㎝ほど動くだろう。
一方、寝転んだ政夫も、膝が胸につくほど深く曲げている。ここから体を伸ばすと、足は1mぐらい動くと考えられる。
つまりスカイラブハリケーンでは、和夫の体は「自分で動かす50㎝+政夫が持ち上げてくれる1m=1m50㎝」も動くことになる。これは自分で体を動かす距離の3倍である。
そのうえ和夫は、「地面から真上に伸ばした政夫の足」という高い地点から跳ぶことになる。自分の体を元に測定&計算すると、身長163㎝の政夫の場合、その高さは1m40㎝になるはずだ。
結論。スカイラブハリケーンは「3倍の距離を動く」と「高いところから飛ぶ」という2つの利点が合体した技ということだ。この結果、飛べる高さは「地上でジャンプできる高さの3倍+1m40㎝」。になる。

では、和夫は具体的にどんな高さまで飛べるのか?
立花兄弟は、小学生のころからゴールポストを蹴って高く飛ぶ空中サッカーを得意としており、スカイラブハリケーンを見せた試合でも、1m50㎝ほど飛んでいた。
すると、1m50㎝×3+1m40㎝=5m90㎝! クロスバーの高さは2m44㎝だから、その2倍以上も高い。うわー、驚異的な技ですなー!

web用キャプ翼スカイラブ図A

どうしても3秒半かかる!

実際にこの技を試合で使うと、どうなるだろう。2人が蹴るタイミングや角度をぴったり合わせなければならないが、それらをクリアしたら、スカイラブハリケーンは実戦で使えるのか。

最大の心配は、技の発動に時間がかかりそうなことだ。
まず、政夫が仰向けになる。これを自分でやってみると、何度やっても1.4秒を切れない。
続いて、和夫が政夫の足に飛び乗る。和夫はここではそれほど高く飛ぶ必要はないが、1mジャンプしたとしても0.8秒かかる。そこから政夫が体を伸ばし、和夫が踏み切って、ジャンプするまで0.23秒。そして、和夫が高度5m90㎝に達するまで、さらに0.96秒。結局、合計3.39秒もかかることになる。

一瞬ごとに局面の変わるサッカーで、こんなに時間のかかる技が使えるのか!? 3.39秒といえば、100mを12秒で走る選手が28mも走れる時間だ。和夫がシュートする頃には、ゴール前は相手選手で埋まっているのかも……。

うーむ。『キャプテン翼』に影響を受けてプロの道に進んだ選手たちも、この技は封印するしかないだろうなあ。地球の裏側でも行われていないかもしれません。【了】

本文・柳田理科雄
イラスト・近藤ゆたか