web用『私がモテて』タイトル画

物語が始まったとき、主人公・芹沼花依(せりぬまかえ)は丸々とふくよかで、イケてないメガネをかけ、恋とは無縁な日々を送る女子だった。でも、幸せいっぱい。アニメはもちろん、学校のイケメンたちのことも腐女子目線で楽しんで、至福の日々を送っていたからだ。
だがある日、アニメ『ミラージュ・サーガ』で、熱愛するキャラクター・シオンが死んでしまった! ショックを受けた花依は、布団をかぶって、飲まず食わずで引き籠もってしまう。
1週間後、母と兄に叩き起こされて布団を出たとき、花依はすばらしくスリムな美人になっていた! そして突然モテまくりの日々に……。こうして『私がモテてどうすんだ』は幕を開ける。

激しく傷つけば、食事も喉を通らなくなる。食べなくなれば、痩せるだろう。それが1週間も続けば、体型や人相も変わってしまうかもしれない。
そんな気もするけど、実際はどうなのか。人間というものは、たった1週間でこれほど変わるのだろうか。

1週間の基礎代謝

花依の変身っぷりはすごかった。しもぶくれのまぁるい輪郭が、シャープあごの逆三角形になり、顔の肉に埋もれていた鼻や唇はいい感じに目立つようになり、小さな点のようだった目は、顔の3分の1を占めるまでの大きさに。
もう完全なる別人。そんな花依を見て、母と兄はガタガタ震えていたし、本人も洗面所の鏡を見て「…? なんでココにポスター?」と言っていたから、家族や自分でさえ別人と思うほどに変わってしまったのだろう。

科学的に気になるのは、体全体の変化である。
花依がどれほどスリムになったのか、劇中では数値は明らかにされていなかったので、失礼ながらここは目測させていただきたい。筆者の経験から想像するに、おそらく――。
before:65㎏ ⇒ after:45㎏
と見た!
ビックリ仰天の痩せっぷりだが、この目測が正しければ,花依は1週間で20㎏ものダイエットを果たしたことになる。それは可能なのだろうか?

花依は飲まず、食わず、動かずで1週間を過ごしたが、人間はこうした状態でも、エネルギーを消費する。脳や心臓や肺などを動かしたり、体液の濃度を調節したりする必要があるからだ(基礎代謝)。
花依の身長が17歳女子の平均と同じ157.5㎝なら、標準体重は52.0㎏で、1日の基礎代謝量は1318キロカロリー。1週間だと9226キロカロリーを消費するわけだ。

花依は飲食もしていないが、動いてもいないから、この数値がこの1週間のカロリー消費の全部のはずである。では、これで体重はどのくらい減るのか?
人間は9キロカロリーを消費するごとに、体重が1gずつ減る。9226キロカロリーを消費したとき、体重の減少幅は1㎏と25g。えっ、たったそれだけ!?

どれほど悲しんだのか?

1週間も食事をしなくて、たった1㎏しか痩せないとはオドロキである。では花依はどうやって、20㎏も体重を減らしたのだろう?
部屋に引きこもっていたのだから、運動したとは思えない。可能性があるのは、シオンを喪った悲しみで、大号泣していたことだろうか。泣くと腹筋や背筋を使うから、かなりのエネルギーを消費するはずだ。

泣くのと似た筋肉の使い方をする「カラオケ」で考えてみよう。
カラオケで歌うと、1曲あたり平均10キロカロリー、最大で20キロカロリーを消費するという。カラオケ1曲は3分ほどだから、最大エネルギーを消費する曲を歌ったら、3分で20キロカロリーの消費だ。
悲しみに暮れる花依が、カラオケを絶唱するのと同じ勢いで号泣し、1時間泣き続けたとしたら、400キロカロリーを消費する。睡眠時間を8時間として、それ以外ずっと号泣していた場合、1日16時間×7日=112時間で4万4800キロカロリー。これで減る体重は、基礎代謝と合わせて6㎏と3g。うーん。20㎏にはまだ足りません。

するともう、身をよじり、ゴロンゴロンのたうち回って、身も世もあらぬほど泣き叫んでいたのだろうか。
それで1週間に20㎏のダイエットを果たしたとしたら、消費したエネルギーは18万キロカロリー。どんなに激しい運動をすれば、こんなに消費できるのか。

運動の激しさを表す「運動強度」という数値がある。これは「1時間に体重1㎏あたりどれくらいのエネルギーを消費するか」というもの。たとえば、マラソンの運動強度は18・5だ。これに対して、花依の号泣の運動強度は29・5!

あの過酷なマラソンの1・6倍ものエネルギーを消耗する悲憤慷慨を1日16時間……って、そんなことになって人は死なないのでしょーか? やっぱりわからん。謎に満ちた花依の1週間である。【了】

web用『私がモテて』図A

本文・柳田理科雄
イラスト・近藤ゆたか