web用ドッペルゲンガー現象タイトル画

ある駅で電車を待っていたときのこと。ホームを歩いてくる年配の女性を見て、ぎょっとした。母方の叔母に生き写しではないか。
その叔母は筆者の故郷の種子島にいるはずで、東京をうろうろしているはずはない。世の中には、似た人がいるものだなあと思いながら、つい彼女の顔をまじまじと見ていたら、目が合った。
すると! 彼女は「ヒロユキさん!」と叫んで、筆者に駆け寄ってきたのである。
心臓が止まりそうになった。ヒロユキとは、父方の従兄弟の名前なのだ。呆然とする筆者に、彼女は「あなた、連絡もしないでどこにいたの!?」と詰め寄ってくる。
必死に冷静になろうとしながら、考える。筆者の叔母にそっくりなこの女性には、顔が筆者に瓜二つで、名前が筆者の従兄弟と同じ身内がいる……ということだ。
筆者は懸命に「自分はヒロユキさんではない」と訴えた。だが、本物のヒロユキさんは、どういう事情かはわからないが、失踪中らしい。すると本人と認めなくて当然であるから、筆者が否定すればするほど、相手の疑惑は確信を深めていく……。
長い押し問答の果てに、彼女は納得してくれたようだった。
いや、ひとまず一歩引いただけか。こちらを何度も振り返り、首をかしげながら去っていったのだから。

ドッペルゲンガー現象とは?

ボヤボヤしていると、一族郎党を引き連れて、筆者を責め立てに戻ってこないとも限らない。行き先も構わず、来た電車に飛び乗って、思い出したのは「ドッペルゲンガー現象」である。

この世には、自分にそっくりな人が、自分を含めて3人存在しており、そのうち2人が出会うと、たちどころに死んでしまうという――。以前、オカルト好きな友人に聞いたのは、そんな話だった。
そのときは「なんて非科学的な!」と笑って取り合わなかった。しかし、ヒロユキさんの存在を知っただけで、筆者の心臓は止まりかけたのだ。もし、ヒロユキさん本人に会っていたら……。
これは怖い。何がなんでも、科学の力でこの恐怖を振り払わないと。

ドッペルゲンガー現象など、存在しない。そう言い切りたいのはヤマヤマだが、ここは百歩譲って、自分と同じ顔の人間が、この世にあと2人いたとしよう。
その場合、筆者が彼らに会ってしまう可能性はどれほどあるのだろうか?

web用ドッペルゲンガー現象図A

えっ、そんなに確率が高いの!?

もちろん「この世に」といっても、筆者とまったく同じ顔の人がブタペストやアジスアベバにいるとは思えないから、日本の人口1億2700万人(2017年)のなかで考えよう。そして、明日1日に筆者が出会う人の数を、チラッと顔を見る程度の通行人を含めて200人と仮定しよう。

そのなかに問題の2人が含まれている確率を計算すると、32万分の1である。う~む、憂慮すべき数値なのか、放っといても構わんレベルなのか、よくわからん。
ならば、1年間で考えてみたらどうか。365日以内に、彼らに遭ってしまう確率を計算すると……ええっ、864分の1!? 

こ、これはちょっと大きすぎるんじゃないか? 筆者という1人の人間が死ぬ確率が864分の1ということは、日本人の864人に1人が、1年以内にドッペルゲンガー現象で死亡するということだ。日本の人口は1億2700人だから、年間死者数は14万7千人!

大変な数である。2017年に交通事故で亡くなった人は3694人。それをはるかに上回り、もしドッペルゲンガー現象が本当に起きるとしたら、同年の日本人の死亡原因は、こうなる。
1位 悪性新生物(がん)  年間37万人
2位 心疾患        年間19万6千人
3位 ドッペルゲンガー現象 年間14万7千人
死にすぎだ! こんなにたくさんの人がお亡くなりになったら、ドッペルゲンガー現象は国会で問題となり、テレビのニュースは「ゴールデンウィークのお出かけでは、ドッペルゲンガー現象にお気をつけください」と注意を喚起するだろう。野球観戦やコンサートやコミケなど、怖くて行けたものではない。
そういう騒ぎになっていないということは、やはりドッペルゲンガー現象など存在しないのではないかなあ。
というか、ぜひともそうであっていただきたい。あーホントに怖いよー。【了】

文・柳田理科雄
イラスト・近藤ゆたか