web用『ドキドキ!プリキュア』まな板切断タイトル画

いまさらプリキュアの皆さんが何をやっても、筆者は驚きません。
彼女たちの戦い方はすさまじく、相手に殴り飛ばされてビルにめり込んだり、目からビームを出したり、バリアを張ったり、相手を凍らせたり……と、あらゆることをやってきたからね。
なのに、このエピソードにはビックリしてしまった。ベーコンを切ろうとして、まな板を両断……!

この豪快なクッキングが描かれたのは、プリキュアシリーズ第10作『ドキドキ!プリキュア』の第6話。
やからしたのは剣崎真琴(キュアソード)で、相田マナ(キュアハート)たちの仲間になる前のことだ。

真琴はトランプ王国からやってきて、人間界ではアイドルとして活躍していた。
その真琴が、マナの家であるレストラン「ぶたのしっぽ亭」でオムライスを作ることになった。シェフであるマナの父に、ニンジンを洗うように言われた真琴は、水を張ったボウルにニンジン9本をドバドバと入れ、洗剤をチューチュー出して、泡だらけにする! 
続いてベーコンを切るように言われると「切る……?」と敏感に反応し、包丁を両手で頭の真上に構え、渾身の力で振り下ろす。
ベーコンは、まな板もろとも真っ二つになった!

真琴がこういうことをしてしまうのは、トランプ王国から来て間もないので、人間界のことをよく知らないから、らしい。
だったら仕方ないね……と優しい目をしちゃっていいの? 包丁でまな板を切るとは、オソロシイ行為である。

まな板が切れないのはなぜ?

まな板問題の前提として考えたいことがある。
真琴がまな板を切ったというのはすごい話だが、逆に考えれば、なぜ通常は調理中にまな板が切れないのだろう?
木のまな板には、ヒノキ、キリ、ヤナギ、ケヤキ、イチョウなどが使われる。これらの木材には、硬い、衝撃に強い、割れにくい、水を吸いにくい……などの特徴がある。
また、まな板には、繊維が平行になるように製材された「柾目材」が使われる。これは、反りにくいほかに、包丁の切断力を多数の繊維が均等に受け止めるのに役立っている。
つまり、まな板には「材料がよく切れると同時に、自分自身は傷つきにくく、そのうえ包丁や使う人にも優しい」という特性が要求されるのだ。
それらを実現するために、木材の種類も、板の切り出し方も選ばれているだろうに、真琴はそんな工夫もろとも、まな板を真っ二つにしたわけだ。

野球のバットも真っ二つ!

真琴が渡されたベーコンは、巨大であった。枕のような形で、劇中の描写から推測すると、長さが30㎝もある。これを元に計算すれば、幅は16㎝、厚さは8㎝。推定重量2㎏!
この巨大ベーコンを切るのに必要な力はどれほどか?
まな板を体重計に載せて市販のベーコンを切ってみる……という実験をし、これを元に計算すると、幅16㎝のベーコンを切るのに必要な力は16㎏だった。

それに対して、劇中の真琴が出した力とは?
今度は、まな板を体重計に載せて、幅1㎝の柾目のヒノキ材(工作用)を包丁で切ってみる……という実験をしたところ、要した力は34.2㎏。アニメの画面で、真琴が切ったまな板の幅を計ると23㎝もあったから、真琴がこのとき発揮した力は34.2×23=786.6㎏だ!

これはすごい。大きな牛一頭を持ち上げられる力だ!
前述のとおり、ベーコンを切るのなら16㎏の力でよかったはずだから、真琴は必要な力の49倍もの剛腕を振るった計算になる。
うーむ、オソロシイ。真琴にはぜひとも「加減」という言葉を教えてあげていただきたい。

しかも、切り方がモノスゴク危ない。真琴は包丁を頭上から振り下ろして、まな板を両断した。
包丁の使い方として、絶対にやってはならない方法だが、科学的に表現するなら「真琴は包丁にものすごいスピードを与えて、その勢いで瞬間的に800㎏近い力を出した」ということになる。これを実現する包丁のスピードは時速167㎞!

web用『ドキドキ!プリキュア』まな板切断図A

こんなスピードで包丁を振ったら、直径9㎝の木がスパスパ切れる。野球のバットは直径6.6㎝だから、苦もなく切れるに違いない。
まだ変身していないのに、充分に強い!と喜ぶべきか、包丁を時速167㎞で振り回すアイドルってどうなのか、と心配するべきか。
いろいろ考えてしまう、まな板真っ二つ事件であった。【了】

文・柳田理科雄
イラスト・近藤ゆたか