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サイコキネシスとか、瞬間移動とか、テレパシーとか、透視とか、超能力にもいろいろあるが、筆者はどれ一つできません。残念だ~。

などと思いながら『斉木楠雄のΨ難』(麻生周一/ジャンプコミックス)を読むと、微妙な気持ちになる。高2の斉木楠雄はあらゆる超能力が使えるが、それを喜んでいないのだ。
なんでもできてしまうから、「努力して達成する」という喜びを知らない。心も読めるし、内臓も透視できるから、異性にドキドキすることもない。そういわれると、超能力があることも、確かに「Ψ難」=災難かもしれませんなあ。

楠雄は、超能力者であることがバレないように、すべての能力を隠し、周囲と関わらないようにクールに過ごしている。それでも、つい超能力を使ってしまうことになるのだが、「その目的に、その超能力!?」というビックリ感がとても楽しい。

エレベータが落ちたら?

科学的に興味深いのは、第2巻「いまさらΨ会!蝶野雨緑」に描かれたエピソードだ。
昔の友人が蝶野雨緑(ちょうの・うりょく)という名のマジシャンになって、テレビ番組に出ていた。蝶野は箱に閉じ込められ、剣で串刺しにされたうえ、高さ30mから落とされる……という過剰すぎるイリュージョンに挑戦するという。

番組を見ていた楠雄は心配になって、箱のなかに瞬間移動してしまう(このへんが楠雄のいいところ)。
ところが蝶野はすでに箱から脱出しており、楠雄は箱ごと高さ30mから落とされてしまった!
絶体絶命のピンチだが、楠雄は慌てない。「君も覚えておくといい。この状況で無傷で済む方法……」と読者に語りかけながら、箱が地面にぶつかる直前、ジャンプする。そしてスタッと着地するや「ね? 簡単でしょ?」。

これ、エレベータのワイヤーが切れたときの対処法としても、ときどき指摘される方法である。本当にこの方法で助かるのだろうか。
高さ30mから落下したエレベータ(楠雄が入った箱も)は、時速87㎞で地面に激突する。突っ立っていたら、大ケガは確実で、命さえも危ないだろう。

どれだけジャンプすればいい?

では、ぶつかる直前にジャンプしたら?
たとえば、垂直跳びで60㎝飛べる人は、床からは時速12㎞で飛び上がっている。落下中のエレベータのなかで飛べば、その分だけ落下速度は遅くなるわけだ、つまり、地面にぶつかる速度は時速75㎞に軽減。おお、時速87㎞よりだいぶマシになった!

などと喜んでる場合なのか。時速75㎞でぶつかったら、やっぱり命はないだろう。
時速87㎞で落ちるエレベータのなかで、衝撃をゼロにできるのは、時速87㎞で飛び上がれる人だけ。
逆にいえば、それは高度30mまでジャンプできる人ということであり、無傷で済むのは、斉木楠雄くん、キミだけです。

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『斉木楠雄のΨ難』はこんな調子で、非常に興味深い。脇役キャラも魅力で、「漆黒の翼」を名乗る海藤瞬など相当オモシロイので、機会があったらまた研究するつもり。【了】

(文:柳田理科雄/イラスト:黒城ろこ)