星の王子様

世界中で読まれているサン=テグジュペリの『星の王子さま』。
飛行家の「ぼく」は、6年前にサハラ砂漠に不時着し、王子さまに出会った。
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは目に見えないんだよ」など、心に残る言葉も多い。不朽の名作ですなぁ。

……などと、わかったようなことを書いているけど、実はよくわかりません。
「かんじんなことは目に見えない」というのは、空気や重力が目に見えないことを指してるのでしょーか。え、やっぱり違う?

で、では、そういったムズカシイ話には深入りしないこととして、筆者が気になるのは、王子さまが暮らしていた星だ。
王子さまは「やっと家ぐらいの大きさ」の星から来たらしい!
宇宙に散らばる星の大きさはさまざまで、家ぐらいのものも、小石ぐらいのものもある。でも、それらの多くは岩や氷の塊だし、重力も小さく、空気を留めておくこともできない。生物などまったく住めない天体になってしまうのだ。

ところが王子さまの星では、バオバブの若木が次々に生えてきて、王子さまはそれを抜くのに追われていたという!
座っている椅子を動かして、日の入りを一日に44度も見たことがあるという!
きれいだけど高慢な花が生えていて、あれこれ世話をさせられたという!
2つの活火山と1つの休火山があり、爆発しないようにすす払いをしていたという!
――あまりに興味深い星である。
そんなにところに住んで、無事に暮らせるのだろうか?

故郷の広さは5畳くらい

王子さまは、自分の星を「とってもちっぽけ」と言っていたが、本当に小さいようだ。
世界に知られた表紙の絵(著者サン=テグジュペリ自身が描いたらしい)で測ると、直径が王子さまの身長の2.5倍しかない。
王子さまの身長を日本人の10歳男児の平均に近い140㎝と仮定すると、星の直径は3.5m。うーむ、確かに家くらいの大きさということだ。

これほど小さいと、星の一周はわずか11m。
王子さまが、50cmの歩幅で1秒に1歩というきわめてゆっくりした速度で歩いても、たった22秒で一周できてしまう。
表面積は38㎡。正方形に置き換えると一辺6.2mという狭さだ。小学校の教室は一辺7.5mぐらいだから、それより狭い。

しかも王子さまの目には、星はそれよりはるかに小さく感じられたと思われる。なぜなら、王子さまが立っているとき、星の丸みに沿って1.7mより遠くは、地平線の向こうに隠れて見えないからだ。
立っている王子さまから見える範囲は、わずか8.2㎡=5畳!
「僕の星は6畳一間より狭いけど、裏側や側面も使える」。それが王子さまの故郷観ということになる

この星では、王子さまが言っていたように、夕日を何度も見ることも簡単だ。
太陽が沈んだあとに、椅子を西へ動かして、その太陽が見える位置に行けば、再び沈むのを見られる。
星の太陽が、われわれの太陽と同じ大きさで、一日も24時間、太陽からの距離も地球と同じだとすると、夕日が地平線に触れてから完全に沈むまで2分8秒かかる。
これは地球でも同じだ。ただし地球では、沈んだ太陽が見える位置へ行くには、赤道付近では2分8秒以内に西へ60㎞進まねばならない。時速1700㎞が必要で、ジェット旅客機に乗っても無理ということになる。
だが、王子さまの場合、日没を繰り返し見るために動かねばならない距離は1.6㎝!
なるほど、座っていた椅子をちょっと動かすだけでいいわけだ! これはうらやましい。

水やりに4時間かかる

これほどまでに星が小さいと、重力も弱いだろう。
王子さまの星が小惑星の平均と同じ1㎤あたり3gの密度を持っていたとすると、表面の重力は地球の670万分の1!

王子さまは、花にジョウロで水をあげていたが、そんな微弱な重力のもとでは、これも大変な作業になる。
高さ30㎝から水をかけたとき、滴が落ちていって花にかかるまで、なんと12分10秒! この星では、短気な性格の人は、花に水をあげることができません。
そもそも、水がジョウロから出てくること自体、重力のおかげだ。
地球上で花に水をやるのにジョウロを5秒傾けるとしたら、王子さまの星では、ジョウロを抱えて立ち尽くすこと4時間12分! これが最大の重労働だったのではないかなあ。

星の王子様図解

ここまで重力の小さな星で暮らすには、注意したほうがいいことがある。
たとえば、地球の重力を振り切るには秒速11.2㎞の速度が必要だ。だからロケットは高速で飛んでいくわけだが、この「脱出速度」が王子さまの星では秒速2.3㎜!
前述したような星一周の散歩などしようものなら、それだけで宇宙に飛び出してしまう。
いや、それどころか、ちょっと身動きしたり、寝返りを打ったりしただけで宇宙に……!
オソロしゅうて、夜もオチオチ寝てられません。

重力が地球と同じなら?

だが、王子さまが、自分の星で重力の弱さに四苦八苦していた気配はないし、地球に来たとき、故郷の星の670万倍もの重力に悶絶していた様子もない。
ひょっとして、王子さまの星には、地球と同じくらいの重力が働いていたのではないだろうか。

王子さまの星の密度が、小惑星の平均の670万倍であれば、それも起こり得る。
ただし、それは1㎥あたり20tという途方もない密度だ。すると、さっきとは違う意味で大変な話になる。

星の密度が170万倍ということは、そこにある岩石の密度も670万倍も大きいはず。
その辺の石ころを拾ったとき、地球のものなら1kgぐらいの石ころが、この星では6700万kg=6700tということになる。
これほど重い石を持ち上げることはできないだろうが、がんばって持ち上げたとしたら、奇妙なことが起こる。
星の重力は、星の中心からの「距離×距離」に反比例する。持ち上げると中心からの距離が遠くなるから、重力は弱くなる。
すなわち石は軽くなるわけだ。6700tの石が、1m持ち上げると2700tに、2m持ち上げると1500tに。
通常、荷物というものは高く持ち上げるほど大変だが、この星ではまったく逆。慣れればどうってことないかもしれないが、われわれ地球人が経験すると、ビックリするだろうなぁ。

その星の重力が地球と同じであろうとなかろうと、極度に小さな星で生きるというのは大変なことなのだ。
筆者もぜひとも「ぼく」と同じように、星の王子さまと知り合いたい。忘れてしまった子どもの心を取り戻したい。
でもその前に「きみの星ではどんな現象が起こるの!?」と根掘り葉掘り聞きたいのだ。【了】

イラスト:近藤ゆたか