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ブラック・ジャックは、医師免許を持たないモグリの医者だが、外科手術の腕は天才的。メスはもはや、体の一部といえるほど使い慣れているのだろう。だから、ピンチのときには武器にもなって……などとナットクしていいのか。人の命を救うための神聖な仕事道具を、人に向かって投げたらいかんと思います。

その問題はブラック・ジャック自身に考えてもらうとして、ここではメスを投げて人の体に刺さるかどうかを究明しよう。
『ブラック・ジャック』の第152話「白い正義」というエピソードでは、投げたメスが悪人の腕にコートの上から刺さっている。まさにダーツのような刺さり方だが、実際にそうなるのだろうか。

メスを入手してみた

友人の医者にお願いして、業者さんからメスを送ってもらった。届いた荷物は、広辞苑を2つ重ねたくらいの大きな箱で、なかにはたった1セットのメスが、幾重ものエアクッションに包まれて入っていた。さすが、人の命にかかわる大事な器材ですなあ。
内容物は、金属の柄が3本と、密封フィルムに包まれた刃が4種類11枚。ブラック・ジャックの時代と違い、いまはメスも刃が使い捨てになっているようだ。
ブラック・ジャックのメスと似た形の刃を選び、フィルムを開けてカチリと柄に装着すると、メスが完成する。

さて、これをどうしたものか。
まさか自分の腕などに刺してみるわけにはいかないから、近所のスーパーで豚肩ロースの塊1376gを買ってきた。水曜特売で2174円であった。
ラップをはがして床に置き、1mの高さからメスを落としてみる。この落差で刃が貫入した深さを計れば、本気で投げたときにどれくらい刺さるかが計算で求められる。

恐る恐る手を離すと、サクッと軽い音がして、意外に深く刺さった。抜いてみると、貫入した深さは4㎝。
ってことは、足にでも落としたら、貫通するじゃないか。こ、怖え~!

包丁よりもよく切れる

こんなモノを、人に向かって投げたら、どうなるのだろう?
物体が1mの高さから落ちる速度は、時速16㎞。ブラック・ジャックが時速50㎞くらいで軽く投げたとしても、速度はその3倍強である。エネルギーは速度の2乗に比例するから、ほぼ10倍となる。理論上は、刺さる深さも10倍となって40㎝!
これはすごい。人体のどこであろうと、骨に当たらない限り、楽々と貫通してしまうということだ。

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この貫通力は、他の刃物と比べてどうなのか? 台所から包丁を持ってきて、肉の上に落としてみる。筆者の故郷・種子島が世界に誇る「種子包丁」だ。
メスの重さは24g。包丁は114gで、メスの4・8倍の重さがある。よって落下のエネルギーを同じにするには、メスを落とした高さ=1mの4・8分の1にあたる21㎝から落とせばよい。
ザクッと貫入した深さは3㎝。さすが故郷の特産品だが、メスには及ばない。
続いてはカッター。同様の理由で1m10㎝から落とすと、こちらはピキッと音がして1㎝8㎜だった。
う~む。すごいのだなあ、メスって。

当然の描写だった!

しかし、マンガではコートと背広の上から刺さっていたことを忘れてはならない。刃物には、得手不得手がある。動物の肉はよく切れるメスでも、ひょっとしたら布は苦手なのでは?
これも実験するほかないが、一張羅のスーツを犠牲にする勇気はありません。
そこで肉にラップをかけ、古いタオルを2重に折って載せた。ラップをかけたのは、もちろんあとで食べるためですね。

カッターと包丁を、さっきと同じ高さから落としてみる。と、どちらもタオルに阻まれ、肉の弾力で跳ね返されて刺さらない。
ところが、メスを落としてみると、サクッ! まったく変わらず4㎝! メスの前には、布などまるで無力ということだ。
なんと『ブラック・ジャック』の描写はまったく正しかったということではないか。

問題は、敵に到達したときに、うまく刃のほうが刺さるように投げられるかどうかだが、このあまりに鋭利なメスでその実験をすると、部屋がズタボロになってしまうのでカンベンしてください~。
ブラック・ジャックがメスをダーツのように扱えたのは、メスの実力をもってすれば当然であった。しかも、第230話「笑い上戸」によれば、ブラック・ジャックは学生時代からダーツの特訓に励んでいたという。作中の現象は充分に起こり得たわけであり、や~、本当に驚いた。【了】

イラスト:近藤ゆたか