六爪流タイトル

ゲームからアニメや映画になった『戦国BASARA』は、ヒジョーに面白い。実在した戦国武将たちがたくさん登場するのだが、どいつもこいつも身体能力がすさまじいのだ。
50mぐらいジャンプするのは当たり前。槍に乗って空を飛んだり、パンチ一発で海を干上がらせたり……。
もちろん、実在の武将たちがそんな力を持っていたはずはないけど、『戦国BASARA』の世界ではそれが普通。見ているうちに、常識的な剣の使い方だと「なんか物足りない……」と感じるようになってしまうのだ。慣れとはオソロシイですな。

ここで紹介する伊達政宗は、そうした武将たちの代表格である。
彼は、左右の腰に3本ずつ、合計6本もの刀を差している。その名も「六爪流」!
正宗も普段は一刀流で戦うが、いざ勝負となれば片手に3本ずつの刀を握る。「奥州筆頭、伊達政宗、押して参る!」と名乗りを上げて突進し、6本同時にぶん回す。
この豪快な攻撃で、城門は打ち破られ、敵兵たちはバラバラと空中に跳ね飛ばされる。

現実の世界では、二刀流でも相当すごいと思うが、その3倍もの刀を使えたらどれほど強いのか。
いや、その前に、実際にそんなことができるのか?
ここでは『戦国BASARA』アニメ版の描写を元に考えてみたい。

うわーっ、指が痛い!

日本刀の重さは1㎏ほどだ。プロ野球選手が使うバットが820~900gだから、それより重い。
政宗は常に日本刀を6本も腰に差しているわけだから、合計6㎏。2L入りのペットボトル3本を持ち歩いているのと同じであり、それだけでも戦いに不利ではないかなあ。
……などと小さな心配をするのは、筆者が凡人だからだろう。伊達政宗はそれを持ち歩くのは当然、片手で3本ずつ握って振り回している。

そんなことが本当にできるかどうか、まずは実験してみよう。
筆者の手元には、研究用に買い求めた模造刀がある。これに加え、武道具屋さんに行って、重さ1㎏の木刀を購入した。それは、素振り用の異様に太い木刀。普通の木刀の重さは500gほどで、1㎏の木刀とはこういうものになるらしい。
さらに、自宅に戻ってハンマーの柄に錘をつけて1㎏にした。なぜ木刀を2本買わなかったかというと、思ったより高かったからですね。財力なくて、すいません。

さて、政宗は3本もの刀をどうやって持っているのか。アニメを見ると、なんと人差し指と中指、中指と薬指、薬指と小指の間に1本ずつ。そ、そんなことが可能なのか!?
どう考えても痛そうだが、覚悟を決めてやってみよう。
まず、1本目の刀を人差し指と中指の間に挟む。うおっ、重い。持ち上げるのがやっとで、振り回すどころではない。
続いて、2本目を中指と薬指の間に押し込む。うぐぐっ、強引に開かれた薬指の付け根が痛い。両側から挟みつけられる中指もすごく痛い! 
もう勘弁してもらいたいが、これも空想科学のためと自分を叱咤激励し、3本目を薬指と小指の間にネジ入れる。うわっ、モーレツに痛い! 中指と薬指が圧迫骨折しそう。小指の付け根も脱臼せんばかり。もう本当に、心から痛い!
持ち上げようとしてみるのだが、腕力の限界というより、痛みへの忍耐の限界で、まったく無理。これで戦うなんて、想像もできまっしぇん。
――以上の実験で、シミジミとわかった。
筆者のような未熟者が、戦場で六爪流を使うと、刀を持ち上げようと四苦八苦しているうちに、四方八方から斬られます。無念じゃ~。

びっくり、政宗の指の力!

この実験でわかったのは、政宗の指の力が尋常ではないということだ。筆者には痛くて持つことさえできないのに、目にも留まらぬ速さで振り回し、敵兵を同時に何人もぶっ飛ばすのだから。
では、伊達政宗の指の力はどれほどなのか?
同時に何人もぶっ飛ばすのだから、1本の刀で少なくとも1人を飛ばすと考えよう。アニメを観察すると、敵は高度10mぐらいまで飛ばされている。人間をこの高さまで飛ばすには、時速50㎞で打ち上げねばならない。
戦国時代の鎧や兜は25㎏もあったというから、敵の重量は武器を含めて100㎏と考えよう。これは刀の重さの100倍なので、敵を時速50㎞で飛ばすには、刀をその100倍の速度でぶつける必要がある。
つまり時速5千㎞=マッハ4・1。ライフル銃の弾丸でさえマッハ3だから、政宗の六爪はそれより速い。
このオドロキの剣速を可能にする指の力を計算すると、なんと43tだ。筆者が自分の指の力を計ってみると、2㎏が限界。政宗は、筆者より2万1500倍も力持ちということになる!

6刀流の利点とは何か?

伊達政宗がすさまじい指の力を持っていることはわかった。だが、ここまでで検証できたのは、それだけの力があれば六爪が使えるということだ。
使えたとしても、戦いに有利かどうかは、別の問題である。片手に刀を3本持つことの利点は、何だろうか?

せっかく3本の刀を持っているのだから、同時に3人を攻撃したいところである。
アニメを見ると、政宗は3本の刀を隣同士が30度ぐらいになる角度で持っている。このような持ち方をすれば、切っ先の間隔は、隣同士が39㎝、端と端が76㎝になる。
すると、敵が39㎝の間隔で立っていてくれれば、真上から刀を振り下ろすことによって、同時に3人を攻撃できるだろう。
しかし39㎝というのは、成人男子の肩幅より狭い。満員電車みたいに、ギュウギュウ肩を重ね合わせれば39㎝間隔でも立てるだろうが、そこまでして斬られるのをおめおめ待つヤツがいるだろうか!?

六爪流図解

もちろん利点も考えられる。
たとえば敵が1人なら、3本の刀を同時にぶち当てることによって、与える衝撃を3倍にできる。
すると、敵が飛ばされる速度は3倍、高度や距離は9倍となる。真上に打ち上げれば、到達高度はなんと90m!
政宗の六爪をまともに受けた者は、現代だったら高層ビルの30階の窓にぶち当たってしまうのだ。やられる側としては、もう「普通に斬ってくれ」と言いたくなるだろう。

実在した武将たちの力を誇張して描いている『戦国BASARA』。
誇張のレベルが尋常ではなく、それに慣れてしまうと、クセになりそうな作品です。

イラスト:近藤ゆたか