ライダー タイトル

仮面ライダー1号、2号、V3など、初期のライダーたちは風のエネルギーで活動した。
その設定は、ベルトの風車に風を受けると、バックルの奥のダイナモが回り、変身も可能になる……というものだった。ダイナモとは発電機のことだから、おそらく風力発電を行っていたのだろう。
風力発電は、燃料もいらず、環境に優しい。この優れたエネルギー源を、平和を守るのに役立てていたとは、まことに素晴らしい人々である。

ただし、現実的に考えれば、ライダーたちの風車には問題がある。直径があまりに小さい!
1号・2号の風車は、直径が10㎝ほどしかなく、V3のベルトには2つの風車がついているが、それだけに直径はさらに小さく、目測わずか7㎝前後!
そんなモノで、戦闘員多数と怪人1匹をぶちのめすだけのエネルギーが生み出せるのだろうか?
ここでは、仮面ライダー1号を例に、ライダーたちのエネルギー問題を考えてみよう。

弱いぞ、仮面ライダー

仮面ライダーは、ベルトのバックルで風を受け、エネルギーを溜めて変身する。
車ではなくてバイクに乗っているのも、変身中にジャンプするのも、バックルに風を受けるためなのだろう。
原作者・石ノ森章太郎先生が描いたマンガ『仮面ライダー』には、人間の姿のときにビルから突き落とされ、落下中の風圧で変身するという場面もあった。仮面ライダーは、徹底的に風の力にこだわったヒーローなのだ。

風力発電には、環境を汚すこともなく、燃料もいらないという利点がある。
また、発電効率が素晴らしい。太陽光発電の効率が20%以下、軽水炉による原子力発電が34%なのに対し、風力発電の効率は、現行の実用機で40%を誇り、理論上は59・3%まで可能とされている。火力発電は最高で50%にも達するが、環境への優しさを考えれば、風力発電こそがいちばん頼もしい発電方法といえるだろう。

だが、これで怪人と戦うとなると難しい。
風のエネルギーは、面積あたりの密度が低い。逆にいえば、大きなエネルギーを得るには、巨大な風車が必要ということだ。各地で見られる風力発電機が、長さ数十mものプロペラを威風堂々と回しているのは、ひたすらそのためである。
この真実を胸に、われらが仮面ライダーの風車に目をやれば……わー、直径が10㎝ほどしかない! こんなに小さな風車でどれほどのエネルギーが生み出せるのか。

風速10mの風を受けたとき、現行と同じ40%の効率なら、出力はたったの1・9W。彼を改造したショッカーの科学力に期待して、最大限界の59・3%を実現したとしても、その出力は2・8Wにすぎない。
しかし、これなら歴代の仮面ライダーが14人集まって、風速10mの風が吹きすさぶ山の尾根にでも立てば、トイレの40W電球は灯すことができる。夜中にはとっても便利……って、そのくらいで怪人と戦えるのかなあ。

ライダー図解1

変身するときのジャンプで得られるエネルギーはどのくらいだろうか?
仮面ライダーのジャンプ力は25mという設定だ。すると、25mの高さまで跳び上がって着地するまでのあいだには、ベルトの風車には58ジュールのエネルギーが流れ込む。
ところが、エネルギー変換効率を59・3%としても、使えるエネルギーはそのうちの34ジュール。
これでは、4㎏の荷物を90㎝持ち上げるのがやっとだ。2L入りのペットボトル2本を腰の高さまで持ち上げた瞬間、すべてのエネルギーを使い果たし、仮面ライダーはばったりと倒れるだろう。これなら、変身前のほうがよっぽど強い!

しかもこれは、風圧を最も効率よく受けられた場合の話だ。劇中のように、直立してジャンプしたのでは、風車はほとんど回転しない。
効率的に風を受けるジャンプとは、仰向けになって上昇し、最高到達点でヒラリと180度回転し、うつ伏せで落ちてくる運動である。これ、力学的に非常に難しい。実行するには、ジャンプする瞬間エビぞらなければならないが、そんなことをすると地面で頭を打つだろう。
はじめから仰向けになって、下の図のように腰のバネで跳び上がるしかない。これができる人間がいたら、相当な筋力の持ち主だろう。変身しなくても充分強いと思う。

ライダー図解2

バイクに乗れば強くなるか?

同じ方法で、ビルから突き落とされたときのエネルギーを計算してみよう。
ショッカーの手によって、地上296mの横浜・ランドマークタワーの屋上から突き落とされたと仮定しよう。落ちながら、風のエネルギーを経て変身する仮面ライダー!
このとき風圧によって獲得するエネルギーを計算すると、2400ジュールだ。これは、800Wの電気ストーブを3秒間つけることができるエネルギー。あまりにも悲しい!

反撃しようと思ったら、ランドマークタワーの屋上にいる敵のところまで行かなければならないが、このエネルギーでは階段を3m上るのが精いっぱいだ。あと293mもある。
エレベーターの乗って上がっていくという手もあるが、このエネルギーでは敵と戦っても勝てるはずがない。わざわざ突き落とされに行くようなものだろう。何度往復しても、結果は同じ。

このどうしようもなく微力なエネルギーでも、バイクに乗れば結構マシになる。
時速500㎞の新サイクロン号で走れば、発電出力は7500W。これなら23分19秒走り続ければ、2500キロカロリーという、常人がごく普通の日常生活を送るのに必要なエネルギーが得られる。
しかし、これで何が嬉しいのだろうか。日常生活を送るためのエネルギーなら、改造さえしなければ三度の食事で済んでいたのである。
しかも、時速500㎞で公道を走ったりすると、狙われやすいうえに、一発で免許取り消しを食う。どこかの山奥に秘密のエネルギー補給用サーキットを建設し、こんな因果な体に改造されたことを嘆きながら、毎日通わなければならない。

う~ん、考えれば考えるほど、不便で不憫なことばかり。仮面ライダーは、本当に悲劇のヒーローなのである。

イラスト:近藤ゆたか