キン肉マンタイトル

『キン肉マン』といえば1980年代を代表するマンガのひとつ……という印象だけど、実はいまでも週刊プレイボーイで連載中である。すごいマンガなのだ。
ここで紹介したいのは、80年代の連載の最初の頃に描かれた「超人オリンピック第21回大会」の「新幹線アタック」。これはオドロキの競技ですぞ~。

最強の超人を決める第21回大会「超人オリンピック・ザ・ビッグファイト」には、世界中から10万人の超人が参加した。
決勝に進出できるのは、わずかに12人。残る9万9988人は、予選でふるい落とされる。
第1次予選は、本当に巨大なふるいにかけられる「超人ふるい落とし」。
第2次予選は、ガソリンのプールでスタート5秒後に火をつけられ、炎に追われて泳ぐ「火炎地獄50m力泳」。
これらを通過したキン肉マンたちが進んだ第3次予選が「新幹線アタック」であった。
それは「0系新幹線の先頭車両を東京駅からひと押しして、どこまで走らせられるか」を競う競技。そして1番手に登場したフランスのタイルマンは、いきなり終点・博多駅の車止めに衝突させた……!
まさに超人の名にふさわしいパフォーマンスだ。どんな怪力なら、こんなスゴイことができるのか!?

東京から博多までたった27分!

新幹線アタックに挑んだ超人たちは、素晴らしい記録を出していった。
ジョーズマンは新大阪、ラーメンマンは岡山、カナディアンマンは小倉!
ところが、われらのキン肉マンは新横浜。期待されたウルフマンは、バナナの皮で滑って有楽町(新幹線の駅はない)。
壮大な話にまんべんなくギャグが散りばめられるのが『キン肉マン』の特徴である。

さて、動き始めた新幹線がいつか止まるのは、空気抵抗、レールとの摩擦、機械内部の摩擦のためだ。ネットで探したところ、0系新幹線に働く摩擦や抵抗などを詳細に計算する公式が見つかったので、これを使って考えよう。
新幹線の機械内部に働く摩擦力は、速度に関係なく「車重1tあたり1・2㎏」。レールとの摩擦力は「車重1tあたり速度(㎞/時)×0・022」。空気抵抗は、先頭車両だけなら「速度(㎞/時)の2乗×0・02」。
すべて合わせると、56tの0系新幹線が時速210㎞の営業速度で走っているとき1・2tとなる。
タイルマンたちの力を求めるには、スタート時の速度を導き出せばいいのだが、右のように速度の1乗と2乗が混在した式からは、それを数式計算で出すのは難しい。そこでゴールから逆算して、速度や距離がどう変化するか、初めは0.1秒ごとに、必要に応じてさらに細かく区切ってエクセルで数値計算してみた。
その結果は……?

まず、東京から博多までの1197・3㎞を走破させたタイルマン。所要時間は、なんと27分13秒だ。短い! これはかなりの速度で押したはずだ。
計算すると……ええっ!? 時速10億7900㎞=光速の99・98%! そんなに速いの!?

ここまで速いと、今度はなぜ27分もかかったのかが不思議である。
それは、空気抵抗は速度の2乗に比例するから。つまり、スタート時の速度はものすごいが、直後から速度は急激に落ちていくのだ。

発揮した力はどれほどか?

さて、タイルマンの力である。
重量56tの新幹線に光速の99・98%というスピードを与えるためにタイルマンが出した力は3600京t! 単純計算すれば、重量1兆tの富士山を3600万個持ち上げられる力、ということである。すごすぎて、よくわからん。

東京から732・9㎞から離れた岡山に届かせたラーメンマンの場合、発揮した力は2100京t。552・6㎞の新大阪まで押したジョーズマンは1500京t。いずれもすごいですなあ。
では、新横浜までしか到達させられなかった主人公・キン肉マンの出した力はどれほどか。新横浜までは28・8㎞、スタート時の速度は、時速340㎞、押した力は2万6千tである。上級者の力がすごすぎるので霞むような気がするが、新幹線450両を持ち上げられる力だ。この怪力があってもダメ超人呼ばわりされる『キン肉マン』ワールドとは恐ろしい。

速いのは最初だけ!?

こうして3次予選は終了し、50人の超人が最終予選に進んだのだが、筆者は心配である。この予選は、観客にとって見応えがあったのだろうか。
タイルマンの押した新幹線が東京-博多間1197・3㎞を走るのに要した時間は、正確には27分12・602149秒である。
一方ジョーンズマンは、その半分弱の新大阪まで(552・6㎞)しか押せなかったが、これに要した時間は、驚くなかれ27分12・600057秒なのだ。
距離は626・7㎞も違うのに、時間は0・002092秒しか違わない!

キン肉マン図解1

これはどういうことか。
つまりタイルマンが押した新幹線は、最初の0・002092秒で626・7㎞を走ったのだ。
その間に、速度を光速の99・98%から、99・893%に落とし、残り552・6㎞をジョーンズマンが押した新幹線と同じように走っていった……。
先に述べたように、スタート時の速度はすごいが、直後から速度は急激に落ちていく。速度が速いときの空気抵抗がいかに大きいか、という話だ。

ということは、この新幹線アタックは、初めの一瞬だけが大迫力で、急激に速度を落としていき、最後に近づくほど遅くなる――という競技である。
営業運転速度の時速210㎞になるのは、常に止まる地点の21㎞手前であり、常にラストの800mには5分50秒もかかる。
スタート地点に近いところで見ている観客には、速すぎて何が起こっているかさえわからない。一方、それ以外の大半の観客にとっては、トロトロ走り続ける新幹線を眺めて過ごすだけになり、実に物足りない。

キン肉マン図解2

やっていることは凄まじいのに、見ていると面白くないという、これはまことに不思議な競技である。

イラスト:近藤ゆたか