カービィ11タイトル

講演会などの質疑応答の時間に、とてもよく聞かれるのがこの問題。
ゲーム『星のカービィ』の主人公・カービィは身長20㎝、まん丸でピンク色の体に、短い手と大きな足がついている。この小さな体で、周囲のものをシュゴゴ~ッと吸い込む。
そして、吸い込んだ相手の性質や能力をコピーしてしまう!
たとえば、鳥のようなバードンを吸い込むと、カービィも翼が生えて飛べるようになり、火を吐くバーニンレオを吸い込めば、自分も火が吐けるようになるのだ。
不思議である。人間が魚を食べても、体にウロコが生えてきたり、水の中でエラ呼吸ができるようにはなったりはしない。
なぜカービィは、そんなことができるのだろうか。

生物の能力を決めるもの

生物の体はタンパク質でできている。
われわれの筋肉も、髪も、赤血球も、その材料はタンパク質だ。カービィも見たところ生物だから、体はやはりタンパク質でできているのだろう。
タンパク質には、数え切れないほどの種類がある(正確な数はわかっていない)。筋肉と髪がまるで違うのは、タンパク質の種類が違うからだ。
ところがこの多様なタンパク質は、すべての生物に共通な、わずか20種類のアミノ酸でできている。限られた種類のパーツしかないおもちゃのブロックで、いろんなものが作れるのによく似ている。
アミノ酸がブロックと違うのは、鎖のように一列にしかつながらないことだ。どんなアミノ酸がどんな順序で並んでいるかによって、タンパク質の種類が決まる。たとえば、あるパターンで並べば筋肉になり、別のパターンで並べば目のレンズのように透明にもなる。
アミノ酸の並び方を決めるのは、DNAの遺伝情報だ。これに従ってさまざまなタンパク質が作られ、生物はそれぞれの性質や能力を発揮する。
カービィが相手を吸い込んで、空を跳んだり、火を吐いたりできるようになるのも、それを実行するためのタンパク質を相手の体から奪うからだろう。

拒絶反応は起こらないの!?

カービィのこの能力は、まことに羨ましい。
たとえば、もしウサイン・ボルトを吸い込んだら、100mを9秒58で走れるようになったりするのだろう。同じことが筆者にもできるなら、世界中の科学者や作家を手あたり次第に吸い込んで、素晴らしい研究をどんどん行い、それを楽しい文で発表したいですなあ。
だが人間には、そういうことはできない。

われわれが牛肉を食べても、頭に角が生えたり、モーモー鳴くようになったりしないのはなぜだろうか。
それは、消化によって、牛のタンパク質がアミノ酸に分解されるからだ。
この時点で、それらがもともと何のタンパク質だったかは関係がなくなる。バラバラなブロックが、その前に何を作っていたのかわからないのと同じだ。
こうして得られたアミノ酸は、人間のDNAの情報に従って並べられ、人間のタンパク質になる。

カービィの体もこれと同じシステムなら、相手の特徴や能力がその体に現れることはないはずだ。
吸い込んだ相手によって、翼が生えたり、火が吐けるようになったりするのは、おそらくカービィが、相手のタンパク質を消化せずに、そのまま自分の体の一部にして、利用しているからなのだろう。 

だとすれば、大きな問題がある。動物の体は、体内に自分のものとは違うタンパク質が入り込むと、攻撃する仕組みを備えている。
これが「免疫」で、キラーT細胞などが体内に侵入した細菌やウィルスを退治したりしているが、それもまたいいことばかりではない。
臓器移植の際、せっかく移植した臓器がはがれ落ちることがある。患者の体が、移植した臓器を異質なタンパク質とみなして攻撃するために起こる「拒絶反応」だ。
ヒトという同じ種の動物のあいだでも拒絶反応が起こるのに、カービィが取り込んでいるのはロッキーやバーニンレオなど明らかに異種の動物。
そんなモンのタンパク質を見境なく取り込んだりしたら、一大事。激しい拒絶反応で全身はボロボロになり、生きていられるかどうかもわからない!

カービィ11図解

カービィがカービィでなくなる!

もちろん『星のカービィ』では、ゲームでもアニメでも、そんな悲劇は起こっていない。これは科学的にどう考えればいいのだろうか。
素直に解釈すれば、カービィは何かを吸い込でも、そのタンパク質を消化せずに自分の体に取り入れるが、それによる拒絶反応も起こらない、ということだろう。
カービィは免疫の仕組みを持っておらず、どんなタンパク質とも仲よくやっていける、という稀有な生物なのだと思われる。

ところがその場合、別の問題が発生する。
人間の体を作る物質は、ほぼ3ヵ月ですべて入れ替わる。期間の長さは違うとしても、入れ替わる点はカービィも同じだろう。
すると、いろんな相手を吸い込んでいるうちに、全身がすっかり別の生物に変わってしまう。たとえば、魚ばかり吸い込んでいると、自分も魚になるのだ。カービィは相手のタンパク質を消化せずに利用すると考えられるだから、脳も魚の脳になってしまうかも。
そうなったらもう、身も心も魚として生きていくしかない。
それではいかんと、いろんな敵をバランスよく吸い込んでいたら、さまざまな生物の要素が混じりあって、何がなんだかわからん不気味な生命体に……。

こんなカービィが、カービィでいられる道はただひとつ。
種類の違う生物を吸い込むのではなく、自分と同じ種の生物を食べる。つまり、共食いだあ!
怖い話になってきたが、おまけにその場合、新しい特徴を身につけることはできない。せっかくの能力が、宝の持ち腐れ。うーん、いったいどうしたらいいのやら……。
明確なのは、生物にとって消化はとても大切、ということですなあ。

イラスト:近藤ゆたか