にせウルトラマン

ヒーロー番組を見ていると、しばしばヒーローのニセモノが現れる。
そいつはヒーローになりすまして悪事を働き、本物の信用と名誉をおとしめようとする。
たとえば、お笑い芸人のニセモノが各地の舞台に登場し、まったく面白くないネタをやり続けたら、「あの芸人はつまらなくなった!」と言われて、本人の評判やイメージはガタ落ちになるだろう。成功すれば、ニセモノ作戦は意外と効果的なのだ。

しかし、バレないのだろうか?
お笑い芸人にせよ、正義のヒーローにせよ、世間から注目されている。だからこそ評判を落とす意味もあるわけだが、注目されているだけに、本物の姿はよく知られていて、ニセモノが出てきたら、たぶんすぐにバレる。普通だったら。
なのに、番組の中の人々はいつもコロリとだまされる。
なぜ誰も気づかないのか、子どもの頃から不思議で仕方がないのだが……。

見るからにニセモノだ!

筆者にとって印象強いニセモノヒーローといえば、にせウルトラマンである。
ザラブ星人が化けたコイツは、本物よりググッと目が吊り上がっていた。
つま先もアラジンが履いてた靴みたいに尖って反り返っていた。
もう一目でニセモノとわかるニセモノ。ザラブ星人も、ずいぶんと不細工なコピーをしたものである。

ところが! 地球人はあっさり騙されてしまったのだ。
にせウルトラマンが突然現れ、街を破壊し始めると、それがウルトラマンだと信じて疑わない。
科学特捜隊のムラマツ隊長は、初めのうちこそ迷っていたが「ウルトラマンといえども、暴れたら許さん」と腹を括っていたし、地球防衛軍の戦車隊など、迷うことなく猛攻撃していた。実際にはザラブ星人を攻撃しているわけで、結果的には正しいのだが、そんなことでいいのか、地球の人々!?
にせウルトラマンの登場は『ウルトラマン』の第18話だから、地球人はそれまでに、もう17回もウルトラマンのお世話になっているのである。突然ウルトラマンが暴れ始めたら「おかしい。何か理由があるのでは?」くらい思いなさいよ。
そもそも、吊り目とトンがったつま先という、明らかな違いに気づかないのはどうしたことだろう?

どこから観察するのか?

にせウルトラマンの身長は、本物と同じ40m。人間がこれを、地上から観察したとしよう。
たとえば40m離れた地点から見上げた場合、にせウルトラマンの頭頂部、にせウルトラマンの足下、そして観察者の3点を結ぶと直角二等辺三角形になるから、観察者が見上げる視線の角度は45度となる。
それを図に描いてみると、あららっ、顔の下半分しか見えない!

にせウルトラマン図解

これでは、「吊り目」という目の特徴に気づくのは難しいかも。
しかも40m離れていれば、観察者とにせウルトラマンとのあいだに、建物や自動車などさまざまな物体が存在しているだろう。それらで視線を遮られるから、つま先の形状を見分けるのも難しいかもしれない……。

身長40mの巨大な宇宙人を観察するのに、距離40mは近づきすぎともいえる。
地球防衛軍の砲弾なども飛び交っていたから、安全に観察するには1㎞くらい離れたほうがいいだろう。
すると、今度は観察対象がえらく小さく見える。
にせウルトラマンの身長は人間の24倍だから、彼を1㎞の距離から観察するのは、普通の人間を42m離れて見るのと同じ。
うーん、顔の特徴までは、見分けられないかもしれませんなあ。

登場時間が短すぎる!

そもそも「アイツはニセモノだ!」と見破るためには、本物をよく知っておく必要がある。
前述したように、ウルトラマンの登場はそれ以前に17回。
だが、ウルトラマンはじっとしているわけではない。現れるや否や、怪獣と激しい死闘を演じ、3分以内に慌ただしく去っていってしまうのだ。3分×17回=51分! わーお、合計登場時間は最大で1時間弱しかない。
そのうえ、毎回どこに現れるかわからないのだから、現代のように人々がスマホを持ち歩いていなかった時代には、その姿を撮影することも難しかっただろう。

つまり、巨大で、いつも大暴れしていて、持久力がないゆえに、ウルトラマンの姿は劇中の地球人に正しく認識されていない可能性が高い、ということだ。
あららら。にせウルトラマンの雑なコピーを問題視するつもりが、あの程度で充分にだませるという結論になってしまった。意外!

イラスト:近藤ゆたか