かめはめ波タイトル

孫悟空が胸の前で両手を向かい合わせて「か~め~は~め~」と気合いを入れると、手のひらのあいだに光の球が現れる。
その輝きが最大限に達するや「波~ッ!」と叫んで両手を前に突き出すと、光の球は尾を引いて飛んでいき、相手を打ち倒す。
ご存知、かめはめ波だ。

この技について、筆者はしばしば「かめはめ波は、どうすれば撃てますか?」という質問を受ける。ウルトラマンのスペシウム光線に関して同じ質問を受けたことはないから、「かめはめ波は自分にもできそうな気がする技」ということだろう。
その気持ちは、もちろん筆者にもよくわかる。作品中、かめはめ波は「気」のエネルギーを凝縮して一気に打ち出す技と説明されている。やる気や元気や弱気など、「気」は誰もが持っているから、体力や技術はなくても、精神力でなんとかなりそうな気がするではないか。

ただし、この「気」というものは科学的には未解明の概念で、存在は確認されていないし、定義も曖昧だ。
そこで本稿では、「気」とは「体内のエネルギー」の総称と考えて話を進めたい。
その場合、われわれ普通の人間は、どうすればかめはめ波を撃つことができるのだろうか。

意外とすごい人間の体内エネルギー

天下一武道会の決勝戦で、孫悟空がピッコロ大魔王に撃ったかめはめ波を例に考えてみよう。
悟空はかめはめ波を空中から放ち、岩でできた武闘場・武舞台を破壊して、直径10m、深さ3mほどのクレーターを作った。

かめはめは図解1

岩をこのような規模と形で破壊したからには、このときのかめはめ波は、爆薬26㎏、標準的なダイナマイト130本分のエネルギーを持っていたと思われる。
それほどのエネルギーが人間の体内にあるのだろうか?
ある! 爆薬26㎏とは2万6千キロカロリー。このぐらいのエネルギーは、われわれも体のなかに持っている。
たとえば体重50㎏、体脂肪率20%の人の体には、10㎏の体脂肪がある。脂肪1gには9キロカロリーのエネルギーが含まれるから、10㎏なら9万キロカロリー。人間は誰でもダイナマイト450本分くらいのエネルギーを持っている、ということだ。
単純計算すれば、前述のようなかめはめ波なら3発は放てることになる。

問題は、どうすればそのエネルギーを武器にできるか、だ。
かめはめ波は両手のあいだにエネルギーを溜め、それを相手にぶつけている。
つまり、まずは手のひらのあいだに、体内のエネルギーを溜める必要があるわけだ。

人間の体からは、常にエネルギーが放出されている。
人間は、一日におよそ2千キロカロリーのエネルギーを食べものから摂る。そのうち半分は生きるのに使われ、残り半分の千キロカロリーが熱となって、体の外に出される。「常に放出されているエネルギー」とは、この千キロカロリーの熱のことだ。
手のひらの面積は、両手で体の表面積の50分の1ほどだから、左右の手のひらからは一日あたり計20キロカロリーの熱が出ている計算になる。

だったら、話は簡単だ。
両手を丸くしてぴったり合わせ、この熱を手のひらのあいだの空気に溜めればいい!
目標は2万6千キロカロリー。1日に20キロカロリーずつ溜めていくと……ええッ!? 1300日=3年7ヵ月もかかるの!?
う~む、なかなか長いな。中学2年生のお正月に溜め始めた場合、3年7ヵ月経ったら高校3年の夏になってしまう。
そのあいだ、学校でも家でも、ず~っと手のひらを向かい合わせにしたまま。鉛筆も持てないので、宿題も部活もできないし、学校のテストも受けられるかどうか……。

いざ、3年7ヵ月の修行の成果は!?

いやいや、勉強も部活もその他いろいろな楽しみも封印して、オレは青春の3年間をかめはめ波に捧げるぞ! そう思う熱いヒトもいるだろう。
確かに、高校3年生が本当にかめはめ波を放ち、直径10m、深さ3mものクレーターを作ったら、一躍ヒーローになれる。青春時代3年間の地味な日々を補って余りある幸せが、ドミノ倒しのように押し寄せてくるかもしれない。
だが、話はそう簡単ではない。実は、前述の「20キロカロリー×1300日」は、それだけのエネルギーを蓄積できるとするならば、という仮定の話なのだ。すいません。
熱のエネルギーは、自然のままでは、温度の低いほうから高いほうへは移らない。
両手を合わせてかめはめ波のエネルギーを溜める場合も、手のひらのあいだの空気は、初めのうちは温度が上がっていくが、体温と同じになったら、それ以上には上がらなくなる。36・5度という温度の手のひらが、空気をそれ以上の温度に上昇させることはできないのだ。両手をどれだけ長く合わせていようと、空気の温度は36・5度のまま……!

かめはめ波図解2

こうして作ったかめはめ波の威力は、悲しいまでに小さい。手のひらのあいだの空気が直径10cmの球だとすると、溜められるエネルギーは、2カロリー。
これは、1gの水の温度を2℃上げるエネルギーでしかない。3年7ヵ月の苦行に耐え、いよいよ敵に「か~め~は~め~波~ッ!」とぶつけたところで、相手はホワッとかすかな温かみを感じるだけ。寒い季節だったら、むしろ喜ばれるだろう。
青春を棒に振ってこの結果とは、あまりに残念、モノスゴク無念……。

では、どうすればいいのか。
筆者は先に「熱のエネルギーは、自然のままでは、温度の低いほうから高いほうへは移らない」と書いた。注目してほしいのは「自然のままでは」というところ。自然のままでなければ、つまり人工的に何かをすれば、熱を温度の低いほうから高いほうに移すことも可能なのだ。
たとえば冷房である。この機械が室内を涼しくしてくれるのは、電力を使って、温度の低い室内から、温度の高い屋外に、熱を移動させているからだ。そのような装置を「ヒートポンプ」といい、冷蔵庫、暖房、温水器など、さまざまな機械に使われている。
現在はまだ作られていないが、性能のいいヒートポンプのついた手袋が開発されれば、温度の低い手のひらから、温度の高い空気に熱を移すことができるだろう。それはすなわち、かめはめ波が撃てるということだ。

うおっ、手のひらで大爆発が!

そんな日がきて、実際にかめはめ波を撃つとしたら、いくつか注意してほしいことがある。 
手のひらのあいだの空気に熱を溜めていくと、空気は温度が上がり、膨張しようとする。2万6千キロカロリーが溜まったとき、温度は2億4千万℃、膨張しようとする力は6万7千t。
これを腕力と根性と気合で押さえ込まねばならない。猛烈に大変だと思うが、途中であきらめてしまったら元も子もない。
そして、いよいよ相手に向かって「かめはめ波!」と手を突き出すと、6万7千tの圧縮力から解放された空気は、爆発的に膨張! つまり、自分の手元で大爆発が起こる。
爆風は衝撃波となって全方位に広がるから、敵もやられるが、自分もただでは済まない。
いや、爆心に近い分だけ、敵よりも先に、敵よりもひどくやられることになる。
3年7ヵ月をかけて放った必殺技で自分が瀕死……。これもぜひとも避けたい事態だ。

かめはめは図解3

うーむ。考えれば考えるほど、かめはめ波には難題が多いな。
2億4千万度に耐えるヒートポンプつきの手袋が開発され、空気の膨張を抑える6万7千tの腕力を有したうえで、それを敵にぶつける手段が必要……。
だが、ここまで問題点が絞り込まれているのだから、かめはめ波はいつか必ず実現できるに違いない。さあ皆さん、その日を待ちながら腕力を鍛えましょう。

イラスト:近藤ゆたか