鷹の爪タイトル

島根県を飛ばす!? なんじゃ、そりゃ!?
と思って『秘密結社鷹の爪 The Movie3 ~http://鷹の爪.jp は永遠に~』のDVDを見たら、腰が抜けた。
本当に、島根県が飛んでいる……!

鷹の爪団は、世界征服を狙う悪の結社。その目的は、みんなが幸せに暮らせる世界にすることだという。
なんだかよくわからないが、とにかく米国ワシントン沖で潜水艦に乗って戦っていたら、全高千mの巨大ロボットが立ちはだかった。
だが、団員のレオナルド博士は涼しい顔。もうすぐ安全装置が作動するという。
それこそが「島根県の飛来」だった。
揺れたと思うや飛び立った島根県は、大阪を越え、東京を越え、ハワイを越えて、パンチを打ち下ろそうとしていた巨大ロボに激突し、一撃でなぎ倒したのである。
こうして世界の平和は守られた。めでたい!
……といいたいところだが、島根県を飛ばしたりして、ホントにめでたい結果になるのか!?

本州から切り離すだけで大変だ

島根県は、東西180㎞、面積6706・7平方㎞。日本で14番目に広い県である。
これをレオナルド博士がどうやってアメリカまで飛ばしたのか、劇中では描かれていない。ここでは、それができたとして、島根県が空を飛ぶとはどのような事件だったのかを考えてみよう。

面積と平均標高301mから計算すると、島根県の海面から上の重量は6兆t。この重さがあれば、身長千mのロボットなど敵ではない。
身長130㎝、体重54㎏のASIMOが身長千mに巨大化したと仮定して計算すれば、体重は2500万tである。
島根県はその4万倍も重いのだから、一蹴したのも当然だ。

だが、一つの県を飛行させるというのは大事業である。
まず陸地を海底から切り離さねばならない。もちろん刃物で切断するのはとうてい無理で、地下を機械で掘り崩すか、赤外線レーザーやプラズマジェットで溶融させるか……。
いずれにしても、掘ったり溶かしたりすると空洞ができるから、落盤を防ぐために柱で支えねばならない。空洞の高さを1mとすると、土砂の除去量は青函トンネルの2千倍にも及ぶ。すさまじい難工事となろう。

また、アメリカまでの飛行に、隣接する鳥取県、広島県、山口県を道連れにすることは許されまい。よって、県境も溝などを掘ってきれいに分断すべきだ。
県境は中国山地に沿っているから、これまた難工事。最も高い恐羅漢山のあたりでは、その標高1347mを超える深さまで掘らねばならない。
そして最大の難関は、隣接3県からの分離である。
県境は複雑に入り組んでいるので、日本海側へ水平に引っ張っても外れない。ジグソーパズルのピースを外すように、6兆tを真上に持ち上げるしかない。その高さは1347mだ。

鷹の爪図解

普通なら絶望するところだが、レオナルド博士の科学力は侮れない。
彼は100円ショップで売っているものだけで宇宙船を作り、ティッシュペーパーから原子炉を作ってしまう天才なのだ。
この人なら、島根名物のあご焼きや板わかめを原材料に、6兆tを1347m持ち上げる機械が作れるのかもしれない。
作り方も、何を作ったかも、筆者の想像を超える。計算からただ一つわかるのは、この作業だけで、島根県民が消費するエネルギーの千年分が使われたということだ!

島根県と地球が滅びる

分離したら、いよいよワシントン沖まで飛ばすわけである。
ここでもレオナルド博士の科学が炸裂したと思われるが、問題は島根県を飛ばしたスピードだ。
島根県からワシントン沖まで1万1500㎞=地球のほぼ4分の1周である。
この距離を水平飛行するための速度とはマッハ23!
6兆tの物体をここまで加速するエネルギーは、島根県民が消費するエネルギーの230万年分!

恐ろしい数値が続々出てきたが、本当に恐ろしいのはここから。
飛ばされた島根県は、いつかは落下するはずだ。すると何が起こるか?
空気との衝突で速度を落としつつ、地面や海面にスレスレに落ちるとした場合、エネルギーの大半は熱に変わり、空気と地面と海水を加熱する。
これらに3等分されたとすると、島根県を含む13兆tの大地が溶け、海水が100兆t蒸発し、触れた空気は3万℃に加熱された後、周囲に拡散して地球全土の気温を14℃上昇させる。

その結果、南極の氷は溶け、海水が80m上昇し、世界の大都市は海の底に!
一方、島根県の落下で大量の土砂が舞い上がり、太陽光線を遮って、こちらは寒冷化の原因となる。
結局、島根県が空を飛ぶと、地球は暑くなるのか、寒くなるのか?
それは各要因の強弱次第で、やってみないとわからない。
明らかなのは、地球が滅びることだけ!

島根県を、とは限らない。都道府県を安易に飛ばしてはいけません。

イラスト:近藤ゆたか