シンフォギアタイトル

『戦姫絶唱シンフォギア』は、人を襲う謎の生命体「ノイズ」と、鎧型武装「シンフォギア」をまとう3人の少女との戦いを描く物語だ。その3人とは、パンチで戦う立花響、剣を振るう風鳴翼、ボウガンの名手・雪音クリス。
物語の終盤、裏でノイズを操っていた美女・フィーネがその正体を現す。彼女は人類の征服を目論んでおり「カ・ディンギル」という巨大な砲で月を破壊しようとする。
放たれたビームは月の中心を外れたが、月の端が割れて、地上から肉眼で確認できるほど巨大な破片が生じた。
この破片に、フィーネは長大な鎖を伸ばして突き刺し、絶叫しつつ引っ張る。そして「月のカケラを落とす!」と叫んだ。
政府機関の軌道計算によれば、直撃は避けられないという!
美女なのに、なんというコトをするのか! いや、彼女が美女かどうかを問題にしている場合ではない。これはあまりに無謀で危険な行為。ここでは、そのオソロシさを考えよう。

破片とはいえモノスゴク巨大!

月の破片を、鎖で引っ張って地上に落とそうとは、すごい発想だ。
地球から月まで38万㎞。この距離から肉眼で見える破片とは、途方もなく大きい。
破片が生じたのは、地上から見て月の右下の部分。アニメの画面で計ると、破断面の差し渡しは月の直径の3分の2ほど。月の直径は3600㎞だから、差し渡しは2400㎞もあるということだ。同様に計ると、厚さは450㎞ほど。
これ、地上に置くと、沖縄を除く日本列島をスッポリ覆い、頂上が宇宙に飛び出すドームのようなシロモノということだ。
その重量は330京t。地球の全陸地の9・4倍である!

これを鎖で引きずり落とすとは、どれほどの怪力だろうか。
フィーネは絶叫しつつ、一気に鎖を引いた。徐々に手繰り寄せたのではなく、最初に強く引っ張って、その勢いで破片を地上に落とそうとしたのだ。
計算すると、最低でも秒速955m=マッハ2・8! しかもフィーネが鎖を引っ張った時間は、わずか5秒だった。
この短時間で、地球の陸地の9・4倍の重量物に、マッハ2・8ものスピードを与えたというのだから、本当にすごい。フィーネが発揮したと見られる力は5千京t。月の重さは4500京tなので、この女性は月そのものを持ち上げられることになる。

しかし冷静に考えると、このシーンは不思議だ。
月の破片は、フィーネの体重よりはるかに重い。それをマッハ2・8で自分に向かって引っ張ると、作用・反作用の法則により、自分も猛スピードで月に向かって吹っ飛ぶはずだ。
長身なフィーネの体重を60㎏として、その速度を計算すると、光速の99・9999999999999999999999999983%! つまり、フィーネが月の破片を落とそうとして鎖を引っ張った瞬間、彼女自身が亜光速で月の破片に向かってすっ飛んでいってしまう。
たちまち大気圏を突破し、フィーネは1・3秒後に月の破片に激突する。そのエネルギーは地球を木っ端微塵に破壊するエネルギーの6倍だ。月の破片など跡形もなくなる!

つまり科学的に考えれば、フィーネは自ら招いた災厄を、自ら解決してくれるはずだったのだ。すべては一瞬の出来事で終わり、響も翼もクリスも、どうリアクションしていいかわからなかったことだろう。
ところが劇中では、月だけが落ちてきた。つまりフィーネは、足も5千京tの力を発揮して、地球にしがみついていたということになる。
う~ん、具体的にどうすればそういうことができるのか、全然わかりません。

シンフォギア図解1

落ちたらどうなる?

よくわからないが、この先は劇中の事実を元にシミュレーションを試みよう。このまま破片が落ちてきたら、地球はどうなるのか?
響は「あんなものがここに落ちたら、私たち、もう……」と声を詰まらせていた。いやいや、「ここに」とか「私たち」などと心配しているレベルではありませんぞ。
計算すると、破片は、2日と17時間後、3人がいた地点から西へ2200㎞の地点に落下する。
破片の半径は1200㎞だから、確かに「ここに」は落ちない。しかし地球の重力で加速されて、秒速7・9㎞で激突し、ビキニ水爆1兆6千億発分の破壊力となり、直径7800㎞の超巨大なクレーターが生じる。
彼女らがいた日本ごと、そのクレーターに飲み込まれてしまう!

被害はそれだけでは終わらない。通常、隕石や小惑星の落下では「舞い上がった土砂が太陽光線を遮る→全地球の寒冷化→生物の絶滅」が心配されるが、そのレベルですらない。
クレーターの深さはマントル層に達するため、莫大な量のマグマが飛び散り、地球全土に火の雨となって降り注ぐ。その熱で地球を覆う岩の層は溶融し、全地表はマグマの海となる。地球は「マグマオーシャン」という46億年前の生まれたばかりの姿に戻るのだ。

シンフォギア図解2

そこからは、46億年前に始まった歴史を繰り返すことになる。マグマから蒸発した水蒸気で1億年にわたって豪雨が降り、地表は冷えて岩となり、低いところに水が溜まって海となる。その母なる海で、生命が誕生するどうかは、まあ、運次第ですなあ。

奇想天外の解決方法

この空想科学界でも一、二を争う大カタストロフィーが迫るなか、3人の少女はどうしたか。
響は「なんとかする!」と言って空高く舞い上がる。残る2人もこれに続き、宇宙に飛び出す。そして声を揃え、歌を歌う!
空気のない宇宙で歌!? などと細かいことを気にしている場合ではない。鎧型武装シンフォギアは、彼女らの「絶唱」によって、秘めた力が限定解除されるのだ。
翼の剣は、全貌が描かれなかったので詳細は不明だが、彼女の身長の30倍ほどに巨大化したようだ。クリスの背中からは300連装ほどのロケット弾を備えた翼が出現。響の腕と足のプロテクターからは後方に100mほどのビームが伸びる。これらで殴り蹴り、斬りつけ、発射することによって、破片のほとんどを蒸発させたのである!
うひょ~ッ、これはもう、何が起こったのでしょう。330京tの岩石を蒸発させるエネルギーとは、ビキニ水爆2兆5200億発分! 月の破片の落下より威力が大きい。彼女らも全力を出せば、地球の歴史をリセットできるわけだ。
敵も敵なら味方も味方である。全員オソロシすぎる美女&少女なのだった。

イラスト/近藤ゆたか