暗殺教室タイトル

ついに終わってしまったなあ、『暗殺教室』。
なんとも刺激的なタイトルの作品で、最初はいったいどうなることかと思ったが、予想を裏切るハートフルな学園ドラマだった。
や~、終わり方も感動的だったな~。

ジーンとしていないで、物語を振り返ろう。
『暗殺教室』の幕開けは、衝撃的だった。ニュースは伝える。「月が!! 爆発して7割方蒸発しました!」。
その直後、椚ヶ丘中学校3年E組に、謎の生命体がやってきて「私が月を爆った犯人です」「来年には地球も爆る予定です」「君達の担任になったのでどうぞよろしく」と挨拶した。
この生命体は、自分に地球を破壊する力があることを示すために、月を破壊してみせたらしい。
地球の破壊を宣言した生命体に対し、各国政府は攻撃を試みるが、弾丸を撃ち込んでも体内で溶かされてしまうし、生命体はマッハ20の速度で移動できるから、戦闘機もミサイルも通用しない。

その状況に対し、生命体は「それでは面白くない」と考え、3年E組の担任となって、生徒たちに自分を暗殺するチャンスを与えることにしたのだった。
それでも暗殺はうまくいかず、生徒たちは「殺せない先生」という意味で「殺せんせー」と呼ぶようになった。殺せんせーは、ときに厳しく、ときに優しく、暗殺の手ほどきをしながら生徒たちと心を通わせていく……。

注目したいのは、殺せんせーの移動速度が「マッハ20」だったこと。なかなか暗殺できなかった最大の要因は、この能力であろう。

マッハ20とはどれほど速い?

というわけで、本稿では殺せんせーの移動速度を考えたいのだが、その前に、科学的に気になってたまらない問題がある。
それは「月が爆発して、7割方蒸発」したという現象だ。

マンガのコマを見ると、月には巨大な球面状の穴が開き、立体的な三日月の形になっている。爆発して蒸発した結果こうなったとしたら、その爆発は月の中心をやや外れたところで起きたのだろう。
月の7割を蒸発させるエネルギーとは、ビキニ水爆40兆発分! 同じエネルギーを地球で爆発させた場合、地球そのものを破壊することはできないが、地球を生物の暮らせない不毛の惑星に変えられる。恐るべきことだ。
この月爆発事件の真相は、マンガ本編を読んでいただくとして、では月の7割を破壊しただけでは、地球に実害は出ないのだろうか?

いちばん大きく影響されるのは潮の満ち引きだ。
地球の潮の満ち引きは、その3分の2が月の重力、3分の1が太陽の重力の影響だから、月が現在の3割になったら、潮の満ち引きの高低差が現在の半分ほどに減るはずだ。これによって、かろうじて残っている干潟の面積は半分になる。
また、瀬戸内海などの内海では、海水の出入りが半分になり、その結果、海が汚れやすくなって、おいしいカキも、タイも、カタクチイワシも取れなくなるだろう。わー、それは残念。やっぱり月を壊しちゃいかんのである!

……と、ずっと気になっていたことが書けたところで、ここからが本題。
殺せんせーの最大の脅威は「マッハ20」というスピードだった。マッハ20とは、そもそもどういう速度なのか。

マッハとは、音の速さの何倍かを表す単位だ。
音速は気温が上がるほど速くなり、地球の平均気温に近い15℃のとき、秒速340m。するとマッハ20とは、秒速340m×20=秒速6800m=時速2万4500㎞。東海道新幹線の86倍、ジェット旅客機の29倍、ライフル弾の7倍!

この猛烈なスピードを活かして、殺せんせーは悠々自適の教師ライフを送っていた。
朝のホームルームの前にはハワイで英字新聞と飲み物を買ってきて、昼休みは中国の四川に麻婆豆腐を食べにいき、放課後にはニューヨークで大リーグ観戦。椚ヶ丘中学が東京にあるとすれば、各地までの所要時間は、ホノルルまで15分10秒、四川省の省都・成都まで8分5秒、ニューヨークまで26分36秒、地球の裏側のリオ・デ・ジャネイロさえも45分25秒!
殺せんせーにとっては、この広大な地球は庭みたいなものなのだ。

暗殺教室図解

周囲の動きがスローに見える

こんな殺せんせーにとって、生徒たちの攻撃はどれほどの効果があるのだろうか。
マッハ20とは、100mを0秒0147で駆け抜けるスピードだ。一般人なら15秒ほどかかるから、殺せんせーは人間の1千倍も速いということだ。
すると、他の動作のスピードも1千倍、それを支える反射神経や思考速度も1千倍と考えるべきだろう。殺せんせーにとって、生徒たちの攻撃はスローモーションのように見えるはずだ。

たとえば生徒たちは、殺せんせーの細胞を破壊できるナイフやBB弾を渡されていた。エアガンの発射速度は、秒速80mほどだから、BB弾も同じだとしたら、殺せんせーには秒速8㎝に見える!
生徒たちは、朝のホームルームで殺せんせーに向けて一斉射撃を行っていたが、生徒たちとの平均距離を5mとすると、殺せんせーには62・5秒かかって飛んでくるように感じられるのだ。なんと1分以上。軽く準備運動してから避けたって、余裕で間に合いますな。

また、殺せんせーは赤羽業(カルマ)という生徒に、その驚異のスピードを見せつけた。殺せんせーは授業中の暗殺を禁止していたが、業はそれを破り、黒板に向かっている殺せんせーに、いちばん後ろの席からエアガンを向ける。引き金を引こうとした業の右手には、いつの間にか殺せんせーの触手がまとわりつき、指が押さえられていた。
殺せんせーは何事もなかったかのように振り向いて「……となります。ああカルマ君、銃を抜いて撃つまでが遅すぎますよ」。そして「ヒマだったのでネイルアートを入れときました」。見ると、業の左手の爪には、手の込んだネイルアートが施されていた。

これはスゴイ! 人間が何かをしようと決めてから実際に行動を起こすまで、0・1秒かかるといわれている。業も「撃つぞ」と決めてから引き金を引くまでの0・1秒を狙われたのだろう。殺せんせーにはそれが1千倍の100秒に感じられる。それだけの時間があったら、指を押さえることなど簡単で、ゆっくりネイルアートを施す時間も……うーん、これはあるかなあ?
調べてみると、ネイルアートには1時間はかかるという。1時間は3600秒だから、0・1秒の3万6千倍。1千倍の動きでは、これはちょっと難しいかもしれません。

どうしたら暗殺できるか?

連載中、筆者もどうすれば殺せんせーを暗殺できるか、いろいろ考えてみた。
頼りになるのは、殺せんせーの細胞を破壊するBB弾だ。これを、エアガンで打つなどという生易しい殺り方ではなく、教室の天井から豪雨のように落とすとしたら……?

算してみると、ああっ、ダメだ! 殺せんせーの頭上1mから落とした場合、BB弾が殺せんせーの頭に触れるまで0・45秒。これも殺せんせーにとって、BB弾の落下は450秒=7分30秒もかかるノンビリした現象なのだ。落ちてくるのに気づいてからトイレに行って帰ってきても、まだ逃げる余裕がある!
それなら、この宇宙でいちばん速い光、しかも破壊力を持つレーザー光線を浴びせたら? その速さは、空気中の音速をもとにするとマッハ88万!

……いや、それでもダメだ。人間には、行動を起こすまでの0・1秒がある。秒速6800mで動ける殺せんせーは、その間に680mも迫ってくる。つまり、それ以上離れた場所から撃たなければ指を押さえられてしまうわけで、そんな遠いところからでは、こっちの狙いが定まらない!

こんなふうに『暗殺教室』には、自分だったらどうするか……と考える楽しみもあったのだがなあ。終わってしまい、本当に残念。でも、とても面白く、素敵なマンガでした。