メイドラゴン図解

洗濯物が乾かないと、憂鬱になりますなあ。
天気の悪い日は、お陽さまの日差しをぱぁーっと当てて、大量の洗濯物を一気に乾かしてくれないかなあ……などと思ってしまう。
『小林さんちのメイドラゴン』では、そんな願いが実現された。ただし、雲から太陽を出す方法が、あまりに大胆であった。

小林さんはアパート暮らしのシステムエンジニアだが、アパートの部屋にはなぜかメイドがいる。しかもその正体は、体長数十mのメスのドラゴン。名前をトールといい、世界に「終末をもたらす程度には」強いという。
このドラゴンと夜の山で遭遇した小林さんは、酔った勢いもあって意気投合し「うちくる?」と言ってしまった。温かい言葉に感激したトールは、かわいいメイドさんに変身して、恩返しのために小林さんに尽くすようになったのだ。

このトールの洗濯物の乾かし方が豪快なのである。
空が曇っていて洗濯物がなかなか乾かないので、ドラゴンの姿に戻って口から「ドオッ」と光線を発射!
分厚い雲に巨大な穴を開け、そこから太陽の光を差し込ませて、ベランダに干していた洗濯物を乾かしたのだった。
洗濯物を乾かすために、巨大なドラゴンが光線を吐く。目的と手段のギャップが大きすぎる気がするが、この光線にはどれほどの威力があったのだろうか?

どんな穴を開けたのか?

空に浮かぶ雲は、小さな水滴や氷晶の集まりだ。雲に穴を開けたということは、その場所にあった水滴や氷晶を、光線の熱で一気に蒸発させたということだろう。
するとトールの光線の威力は、雲に開けた穴の大きさから推定することができる。
雲に開いた穴の大きさは、マンガのコマでは測定が難しい。とはいえ、直径1㎞とか5㎞とか、そんな小さなレベルではなかったはずだ。
なぜ、そう言い切れるのか? 根拠は他でもない、洗濯物が乾いたという事実だ。

日本の上空では、西から東に向かって「偏西風」が吹いている。風速は季節や高度によって変わるが、概ね秒速10~30mだ。
中間をとって秒速20mとすれば、それは時速72㎞。つまり、トールが雲に開けた穴も、雲といっしょに時速72㎞で東へ移動していくことになる。穴が小さいと、たちまち小林さんのベランダには太陽の光が当たらなくなってしまう。
洗濯物が乾くには、夏場でも5時間は必要だろう。洗濯物が乾いたからには、その間、小林さんちのベランダには太陽の光が燦燦と降り注いだはずだ。すると、トールが雲に開けた穴の直径は、時速72㎞×5時間=360㎞!
小林さんのアパートが東京にあるなら、このとき関東全域が晴れ渡ったはずである。みなさん喜んだでしょうなあ。

 

労力は3200億倍!

雲にこれほどの穴を開ける光線の威力は、どれほどか。
小林さんちのアパート上空を覆っていた分厚い雲は、雨を予告するかのように、雷がゴロ……ゴロ……と鳴っていたから、おそらく積乱雲だったと思われる。
積乱雲は、いちばん低いところが地上2㎞で、雲頂の高さは5〜16㎞にも達する。その高さを10㎞と考えるならば、雲の厚さは8㎞となる。
つまりトールは、積乱雲に「直径360㎞、厚さ8㎞」の穴を開けたのだ。

メイドラゴンタイトル
積乱雲には、1㎥あたり1~3gの水が含まれるから、これも中間の2gと考えるなら、トールの光線が蒸発させた水は16億t! 日本一の貯水量を誇る徳山ダム2・5杯分の水を蒸発させたわけである。
これに必要な熱量を計算すると……ぐわっ、ビキニ水爆69発分! このドラゴン、確かに世界に終末をもたらすほどの破壊力を秘めていた!

しかし、よく考えると、雲に穴を開けるのも、洗濯物を乾かすのも、「水分を蒸発させる」という意味では同じ行為である。
だったら、わざわざ高空の雲を直径360㎞にもわたって蒸発させずとも、弱い光線をちょろっと出して、洗濯物に含まれる水分だけ蒸発させちゃえばよかったのでは?
マンガに描かれていた洗濯物は、シャツ1枚、スカート1枚、バスタオル1枚、靴下2足。実際にはその5倍の量があったとしても、洗濯物に含まれる水の総量は最大でも5㎏もないだろう。雲から蒸発させた水16億tとは、その3200億倍だ!

そこまでの労力を使って雲に穴を開けたのは、トールはあくまでも天日干しにこだわった……ということだろうか。
確かに、太陽の光には殺菌力のある紫外線が含まれているからなあ。そう考えれば、なるほど真心あふれる立派なメイドさんである。【了】