小次郎タイトル

サッカーボールがコンクリートの壁にめり込む! 考えるまでもなく、大変な現象だ。

こんなすごいことをやってのけたのは、主人公・大空翼の最大のライバルである日向小次郎。事件は、こういう状況下で起こった。
翼くんになかなか勝てない小次郎は、東邦学園中3年生のとき、全国大会を前にチームを抜け出して沖縄へ飛んだ。
そして、台風で大荒れの砂浜で「大空翼に負けるのは、もうたくさんだ!」と叫びながら、ボールで波を突き破る特訓を積む。やがて、小次郎の足腰は大波をかぶってもビクともしないまでに鍛えられた。

ところが、大会直前にチームに戻った小次郎に、サッカー部の監督は「勝手にチームを外れた小次郎は使わない」と告げる。
小次郎は歯軋りしながらベンチを暖め続けるが、ある日ついに怒りが爆発。
試合中、コートの脇で小次郎が、味方選手のシュートと同時にボールを蹴ると、ボールは競技場のコンクリートの壁に激突し、落ちたあとには穴が開いていたのだった……!

ああ、小次郎の悔しさがよくわかる! などと感心している場合ではない。
試合をやっている横で、全力でボール蹴っていいのか!? などとマナーを問うている場合でもない。
ボールでコンクリートに穴を開けるとは、あまりにも強烈なキック力である。小次郎はどんな力で蹴ったのだろうか?

壁の向こうが壊れていた!?

小次郎のキック力を求めるために、コンクリートの壊れ方を見てみよう。
アニメの画面を観察すると、壁は周辺部が直径16㎝、最奥部が直径8㎝ほどのすり鉢状にへこんでいる。
これは、ちょっと不思議な光景ではないだろうか。穴の部分にあったコンクリートはどこへ行ったのか。ボールがぶつかった衝撃でコンクリートが砕けたのなら、周囲に破片が散らばり、へこんだ部分はもっと凸凹があってもよさそうなものだ。しかし画面を見ると、破片が飛散した形跡もなく、穴の表面も滑らかである。

コンクリートは、硬いが、脆い物質だ。
以前、筆者が専門家に聞いた話では、このような性格の物質に物体が高速でぶつかると、破壊は衝撃を受けた側でなく、反対側に起こるという。衝撃が加わった点を頂点にしてラッパ状に砕け、破片が向こう側に飛び散るのだ。コンクリートの場合、その広がりの角度は52度といわれる。

つまり、小次郎のボールを受けたコンクリートの壁は、手前は少しへこんだだけだが、こちらからは見えない向こう側が、大きく壊れていると思われる。
壁の厚さを50㎝と仮定して計算してみたところ、壁の向こう側のコンクリートは280ℓも壊れたという結果が出た。これは、こちら側で凹んだ部分の体積の890倍だ。
ボールが当たった瞬間、壁の向こうに人がいたら、いきなり破片がぶっ飛んできたはずで、さぞかしビックリしたことだろう。

小次郎図解

中学生用のサッカーボールの重量は430gである。
こんなに軽いものをぶつけて、280ℓのコンクリートを破壊したからには、小次郎はたいへんなスピードで衝突させたはずである。
計算してみると、その速度はなんとマッハ3・2!
小次郎は、ピストルの弾丸の3倍ものスピードでボールを蹴ったことになる。あまりにも恐ろしい中学生だ。

驚くべきはそれだけではない。
これほどのシュートを放てるということは、小次郎はすごいキック力の持ち主だということだ。足がボールに触れてから蹴り出すまでに、ボールを動かした距離が20㎝だったと仮定すると、小次郎のキック力は120t。
なんとK-1選手の100倍だ。小次郎は格闘技の世界に進んでも、チャンピオンになれるだろう。

不思議なのは、これほどの力を持っている小次郎が、なぜ大空翼に勝てないのかということだ。
翼くんは、コンクリートの壁をへこませ、K-1選手の100倍も強い小次郎よりも、もっと強いというのだろうか?

翼くんが見せたプレーのなかで、筆者がもっともすごいと確信するのは、小学生のときに全日本少年サッカー大会で優勝を決めたシュートである。
キーパーをかわして無人のゴールに突き刺さったボールは、ゴールネットを突き破った。
実験と計算で求めると、このシュートのスピードはマッハ4・8! なんと小次郎のシュートの1・5倍である。しかも、小学生なのに……。

こんな化け物みたいな人がいたのでは、小次郎もなかなか大変だ。
相手が翼くんでさえなければ、間違いなく日本一、いや世界一だったろうに。
いいライバルに恵まれたと思って、2人で切磋琢磨してもらいたい。【了】

文・柳田理科雄
イラスト・近藤ゆたか