tsuri

2001年から続く『どうぶつの森』シリーズは、捕ってきた魚や虫や化石などを売ってお金を稼ぎ、家のローンを払ったり、家具を調えたりしていく人気のゲームだ。
お金は、木を揺らすと落ちてきたり、スコップで岩を叩くと出てきたりもする。
いいなあ、それ。現実世界もそうならないかなあ。

だが、ほのぼのしたこの世界でも、結構ワイルドなことが行われている。
第6作『とびだせ どうぶつの森』では、捕獲対象にジンベエザメがあり、プレイヤーはこれを釣竿一本で釣り上げるのだ!

まことに恐ろしい行為である。
ジンベエザメは地球でいちばん大きな魚類であり、体長5~18mにも達するという。
そんなモノを一本釣りするなんてことが、果たして可能なのか?

「釣り上げちゃった~」だとぉ!?

実は筆者はゲームが苦手で、『とびだせ どうぶつの森』も1回もやったことがない。
そこで、ゲームが得意な知人に釣りの場面をやってもらったところ、そこに広がったのは驚愕の光景であった。
 
プレイヤーが浜辺に出かけ、身長と同じくらいの長さの釣竿で、沖に向かって糸を投げる。
浮子の下に魚影が近づいてきて、針にかかった魚が浮子の周りをぐるぐる泳ぐ。
竿を上げるとバシャッと軽い水音がして、プレイヤーの手元に魚が飛んでくる。
それはアジだったりタイだったりして、これが現実だったら、筆者はもう満足して家に帰り、新鮮なうちに刺身にしたいところだ。

が、そんなわけにもいかないので、知人には根気強く続けてもらうと、おおっ!
ついに釣れました、ジンベエザメ!

するとプレイヤーはジンベエザメを片手で持ち上げ「ジンベエザメを釣り上げちゃった! でっかい!」と喜ぶ。
セリフの文字の下には魚のマークに続いて「800㎝」と獲物のサイズが表示される。
そしてすぐさま、プレイヤーはジンベエザメをズボンのポケットにしまうと、次の魚を釣りにかかるのだった!

ちょ、ちょっと待たんかい! 
体長8mにも及ぶジンベエザメを、身長ほどの釣竿で釣れるのか?
それを片手で持ち上げられるのか?
ましてズボンのポケットなんかにしまえるのか!?
ビックリ仰天の3連発。あまりに恐ろしいゲームである。

しかし、体長が明示されている以上、8mのジンベエザメが釣り上げられたのは、疑いようのないゲーム世界の事実。これはどれほど大変な行為であろうか。

恐るべしテコの原理!

ゲームの画面には体長しか示されないが、8mのジンベエザメとは、相当の重さになるはずだ。
大阪の水族館「海遊館」のジンベエザメ・海くん、大くんの体格をもとに計算すると、体長8mのジンベエザメは、体重およそ6t。なんと、中型の路線バスくらいの重量だ。
そんな魚を片手で持ち上げるとは、ほのぼの暮らしているように見える『どうぶつの森』の人々は、実は恐ろしい怪力だったのだ……。

しかも、6tの魚は、6tの力では釣り上げられない。
釣竿のような長い物体でモノを持ち上げると、テコの原理が働くため、大きな力が必要になるのだ。
体長8mのジンベエザメを、ゲームのように釣竿だけで釣り上げるには、少なくとも竿の長さは8mが必要だろう。
この竿の根元を左手で握り、50㎝離れた位置を右手で握るとしよう。
左手をテコの「支点」と考えれば、右手が「力点」、糸をつないだ先端が「作用点」になる。支点から作用点までの距離は8mで、支点から力点までの50㎝と比べれば、16倍の長さがある。
すると、力点である右手が出さねばならない力は、6tの16倍で96t!

8mのジンベエザメを一本釣りできるプレイヤーは、実は中型の路線バスを16台も持ち上げられるヒトだったのだ!
こうなると、もうコワい……。

『どうぶつの森』ジンベエザメ図A

なぜポケットに入れる?

だが、怪力があるだけで、巨大なジンベエザメを一本釣りできるわけではない。
普通の釣竿ではたちまち折れるだろうから、モノスゴク頑丈な釣竿を準備したほうがいいし、糸や針もそれなりのものが必要だ。
そして、ジンベエザメが食べるのは、意外にも小さなプランクトン。釣り糸にプランクトンを入れたカゴを釣り下げ、うまく揺らしてプランクトンを漂わせるなど、アジやタイを釣るのとは別の仕掛けをしなければならないだろう。

などと気になることは多々あるのだが、筆者が何よりも問題視したいのは、釣り上げたジンベエザメをプレイヤーがポケットに入れることだ。
8mのジンベエザメがポケットに入るのか?
入れたらポケットが破れないのか?
ズボンが濡れてキモチ悪くないのか?
そもそも釣り人は、釣った魚をポケットに入れたりしないのでは……!?

ここでは、プレイヤーのポケットの内部が『ドラえもん』の四次元ポケットのように特殊な空間になっていて、物理的にジンベエザメを入れることが可能だと考えよう。
それでも問題がある。
サメやエイは原始的な魚類で、タンパク質を消化する過程で発生するアンモニアを処理する仕組みを持っていない。人間の腎臓に当たる器官がないのだ。
このため死んでしばらくすると、猛烈なアンモニア臭を放つ。ジンベエザメをポケットの中で死なせようものなら、ポケットの中は悪臭にまみれ、アジやタイなど他の魚も食べられたものではなくなる。ズボン自体も、二度と使えなくなるかも……。

ジンベエザメは、ぜひ生きたまま持ち帰ろう。
そのためには、ポケットに大量の海水も入れてもらいたい。
ジンベエザメは、これも原始的な魚類の特徴で、エラに自力で海水を送ることができない。泳ぎながら海水を吸い込まないと、窒息してしまうのだ。
体長8mのジンベエザメが自由に泳ぐには、縦20m×横20m×深さ10mほどの水槽が必要だろう。それに匹敵する海水とは、実に4千t。
これだけの海水をポケットに入れるには、バケツで1回に5㎏の水を入れるとすると、80万回汲まねばならない。
1秒に1回のペースで汲むとしても、4千tを入れ終わるのは9日と6時間後……!

ジンベエザメの一本釣りとは、これほど大変なことなのだ。
なのに『どうぶつの森』のヒトは「釣り上げちゃった」と軽く喜ぶだけで、すぐ次の魚を釣り始める。ちょっと淡白ではないかなあ。
もしも現実の世界で、巨大なジンベエザメを釣り上げることがあったら、まずは身も世もあらぬほど狂喜乱舞していただきたい。

『どうぶつの森』ジンベエザメ図B