地球の裏側タイトル

日本から見た地球の裏側はブラジルだから、地中深くどこまでも穴を掘り進んでいけば、やがてはブラジルに出られる————。
よく耳にする話だが、これは正しいのだろうか。日本の裏側は本当にブラジルで、真下に向かって穴を掘り進んでいけば、いつかブラジルに出られるのか?

たとえば、東京は北緯35度41分、東経139度45分。その裏側の地点は「南緯35度41分、西経40度15分」。
そこはウルグアイから東に1000㎞離れた大西洋だ。つまり、東京の裏側はブラジルではなかった! 
東京に限った話でなく、日本列島の裏側は、ほぼ南アメリカ沖の大西洋である。地中深く穴を掘ってブラジルに到達できるのは、日本では奄美大島や沖縄などだけだ。

そこで、ここでは沖縄県の那覇市から穴を掘っていくと考えよう。那覇の裏側はブラジル南西部のパト・ブランコという町だ。
那覇からどこまでも穴を掘っていったら、無事にパト・ブランコにたどり着けるのだろうか?

地球の裏側まで42分!

地球の直径は1万2800㎞。地球の裏側に達する穴を開けるには、この距離のトンネルを掘らなければならない。きわめて大変な作業になる。
地下鉄工事などでトンネルを掘るのに使われるシールドマシンは、硬い岩盤でも力強く掘り進んでいくが、そのスピードは最高で時速2m前後。「2㎞」ではなく「2m」だから、ものすごくノロい。
このペースで1万2800㎞を掘るには、不眠不休でも730年かかる。2015年から工事を始めたとして、トンネル開通は西暦2745年。筆者はもちろん、この原稿を読んでくれている人も、誰一人生きていないだろうなあ。

これでは話が進まないから、ここ数年の間にきわめて速く穴を掘る技術が開発されて、全長1万2800㎞の地球貫通トンネルが開通したとしよう。そこへ人間か飛び込んだらどうなるか?
地球の重力は、地球の中心に向かって働く。そのため、飛び込んだ人は、最初は重力に引かれて速度が上がっていくが、中心を過ぎると重力に引き戻されて速度が落ち始める。この結果、地球の中心を通過するときに速度は最も速くなる。それは、なんとマッハ23!

そして、地球の裏側に達する瞬間、速度はゼロになる。その機を逃さず、穴の周囲のどこかに無事着地すれば、そこがゴールだ。計算すると、所要時間は42分!
かつて成田とリオデジャネイロをつなぐ直行便があったころ、所要時間は28時間だったという。これに比べると、驚異的な早さである。
ただし、着地に失敗すると、再び穴向かって落ちていく。そして那覇に戻ってくるまで、また42分……ということになり、ヘタすると延々これを繰り返すことに。何がなんでも着地しよう。

地球の裏側図解

地球内部は灼熱地獄!

着地しよう、などと簡単に書いてしまったが、この地球貫通の旅は「熱」との過酷な戦いになるはずだろう。
地球の内部は、地殻・上部マントル・下部マントル・外核・内核に分かれていて、中心部に行くほど熱くなる。穴に飛び込んだとき、周囲の温度がどう移り変わっていくかを見てみよう。

まず、穴を落ち始めて1分後、地下18㎞に達したとき、トンネル内の気温は早くも530℃に! 5分後、地下440㎞で1千℃を超え、10分後に地下1700㎞で2千℃を突破。15分後は地下3600㎞で5千℃、そして地球の中心を通過する21分後には、なんと6千℃……!
こんな灼熱地獄のトンネルに体一つで飛び込んだら、1分ともたずに死んでしまうだろう。だが、死んでしまった後も、体はそのまま落ち続ける。やがて水分は蒸発して体は炭になり、周囲の酸素と反応して発火炎上。かろうじて燃え残ったカルシウムやリンも、6千℃の高温で蒸発してしまう。結果、骨はおろか、何も残らない……。

生きて南半球の地を踏みたければ、耐熱服を着込んで身を守るしかない。だが、6千℃といえば、太陽の表面温度より高い温度だ。これに耐えられる物質が地球上に存在するのか?
『理科年表』で調べてみると、最も融点の高い物質は炭化タンタル。溶け出す温度は3880℃。う~む、6千℃には全然足りないか……。

いや、諦めるのはまだ早い。たとえば、2010年に帰還したJAXAの小惑星探査機「はやぶさ」の例がある。その本体は大気圏に突入するときに燃えて消滅したが、帰還カプセルは3千℃の高熱に耐えて小惑星イトカワの岩石サンプルを持ち帰った。その際、カプセルを熱から守ったのがCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製のヒートシールド。このヒートシールドはみずから燃えることでカプセルの表面から熱を奪い、結果的にカプセルが高温になることを防いだのだ。
この考え方に立てば、炭化タンタルは溶けてもいい。それでも内部が守れるだけの厚みがあればいいわけだ。外側から徐々に溶けていって、炭化タンタルの層がすべて溶けてしまう前に、3880℃以上の高温地帯を通過できればいいだろう。そのためには、耐熱服というより、人が入れるように中が空洞になった球体がいいかもしれない。内部の空洞が直径2m、炭化タンタルの厚みを30㎝とすると、球体の直径は2m60㎝。これが通り抜けるためには、穴の直径は5m以上ほしいところだ。

あまりの恐怖が待っている!

こうして、炭化タンタルの球さえあれば、何とかなりそうな雲行きに……、あっ。筆者はいま、大切なことに気がつきました。

地球は自転しているのだ。地上の人間も、地球といっしょに西から東へ運動している。北緯26度の那覇の場合、時速1500㎞というモーレツな速度だ。そんな状況下、人の乗った炭化タンタルのボールが落ちていくとどうなるか?
はじめのうちは、まっすぐ落ちていく。ところが、穴も回っているため、やがて穴の壁が西から迫ってきて、炭化タンタルのボールにぶつかる。その後、ボールは穴の壁から離れることなく、その表面をごろごろ転がっていく……。

わ~ッ、目が回るう、などというノンキな状況ではない。落下のエネルギーが回転のエネルギーに食われてしまうのだ。すると、落下速度は前述のマッハ23に達しない。それは、地球の裏側まで達するための勢いが足りないということだ。そのうえ、壁との接触や空気との衝突で、さらにエネルギーは失われる。で、最終的にはどうなる!?
地球の裏側までたどり着けない! そのはるか手前で引き返し、今度は地球の中心を過ぎて那覇に向かうが、またも手前で引き返す。
こうしてだんだん距離を短くしながら往復を繰り返して、いつか地球の中心で静かに停止する。あとは炭化タンタルが溶け切るのを待つばかり……。うっひょ~、想像するだけでムチャクチャ怖い!
地球を貫く穴があっても、安易に飛び込むのは危険です。気をつけましょう。【了】