フランダースタイトル

最終回が悲しいアニメやマンガはたくさんあるが、その№1と言えるのが『フランダースの犬』だろう。テレビの「感動の最終回特集」みたいな番組では定番の、あまりに悲しい物語である。

貧しい祖父と2人で暮らすネロは、同郷のルーベンスに憧れ、画家への道を夢みていた。しかし、アロアと遊ぶことを禁じられ、おじいさんは亡くなり、放火の疑いをかけられて仕事も失い、住んでいた小屋を追い出され、すべての望みを託した絵のコンクールにも落選。ついには、ルーベンスの絵の前で、愛犬のパトラッシュと共に力尽きる。
ネロの最期の言葉は「パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ……。なんだか、とても眠いんだ……、パトラッシュ……」というものだった。

む、むごい。このアニメは「世界名作劇場」と謳われるシリーズだけど、かわいそうすぎて、名作かどうかなんて、筆者には判断できまっしぇん!
なぜこんな悲劇になってしまったのか? なぜネロとパトラッシュは死ななければならなかったのか? ここでは、この純朴な少年と健気な犬が死なずに済む道はなかったのかを考えたい。

一発逆転をコンクールに賭ける!

ネロもはじめから不幸だったわけではない。2歳のときにお母さんを亡くし、引き取ったおじいさんは貧乏だったが、ネロの周囲には温かい時間が流れていた。
おじいさんは、村人が搾った牛乳を荷車で運ぶ仕事をしていた。老いた体には重労働だったが、ネロも手伝い、毎朝アロアに見送られてアントワープまで出かけるのが日課だった。きこりのミシェルおじさんや隣のヌレットおばさん、アロアの母のエリーナさんなど、優しい人々も多かった。にもかかわらず、ネロはなぜ不幸になったのか?

実は、ネロにつらく当たったのは、たったの2人なのだ。
アロアの父のコゼツ旦那と、コゼツ家の出入り商人ハンス。コゼツ旦那は、娘のアロアが貧乏なネロと仲よくするのを嫌っていた。そしてハンスは、ネロがアロアと遊んでいると、コゼツ旦那に言いつけるのだ。あ~、書いてても腹が立つなあ。

何よりネロには、お金の問題が大きくのしかかっていた。絵画コンクールに応募するにも結構な費用が必要で、これを捻出しようと無理をしたおじいさんが倒れてしまう。
ネロは一人で牛乳運びを頑張るが、同業者が現れたために、収入は激減。
波止場で荷運びをして稼いだお金で、おじいさんのためにスープを作るが、おじいさんは一さじ飲むと息を引き取ってしまった。
最期の言葉は「いい絵を描くんだぞ」。うお~ん。あまりにかわいそうだ~!

泣いている場合ではない。本当に大変なのは、ここからなのだ。
ある晩、水車小屋が火事になる。原因は不明だったのに、ハンスは夜中にネロを見かけたというだけの理由で「おまえだろ、風車小屋に火をつけたのは。さあ、白状しろ!」と、村人たちの前でネロを犯人扱いした。
ここから村人に疑念が広がり、ネロに牛乳運びを頼む農家はなくなってしまう。収入を絶たれたネロに、ハンスは迫る。「家賃が払えないなら、出て行け」。そんな状況にしたのはオマエじゃないか!
だが、この理不尽な要求に対して、ネロは「クリスマスまで待ってください。そしたら出ていきます」と応じてしまう。応募していた絵画コンクールの発表が、クリスマス・イブに行われるのだ。こうして、コンクールで1等を取ることに、ネロはすべてを賭けることになった……。

盆と正月がいっぺんに!

確かにそのコンクールは、すべてを託したくなるものだった。一等の賞金は200フラン。劇中の物価から考えて現在の500万円くらいのようだ。しかもその金額が、毎年もらえるという!
このコンクールに、ネロは、パトラッシュとおじいさんの絵を提出した。
そしてクリスマス・イブの日、ネロは公会堂の広間で発表を待つ。一等を取ったのは、キースリンガーという少年だった。ネロは絶望! 家賃は払えない。もう出ていくしかない。

とぼとぼと家路をたどるネロ。だが、このとき事態を急展開させる出来事が起こる。パトラッシュが、雪に埋もれた袋を見つけたのだ。入っていたのは、コゼツ旦那が落とした2千フラン!
ネロは急いで袋をアロアの家に届ける。あれほどお金に困っていたのに、悪い心を起こすこともなく。
コゼツ旦那は不在だったが、アロアとお母さんは大感激。食事を勧めるが、ネロは断り、激しい吹雪のなかへあてもなく出ていく。ああ、悲劇のエンディングが近づいてくるよ~。

だが実は、このときネロの周りには幸せが次々に訪れ始めていた。列挙すると次のとおり。

1、コゼツ旦那は、ネロが金を拾って届けたことを知って、これまでの仕打ちを深く反省する。アロアとつき合うことも認め、「わしはあの子に償いをしなければならん」と泣く。
2、コゼツ家に風車職人がやってきて、風車小屋に放火したのはネロではないことを伝える。
3、ヌレットおばさんらが、ネロとクリスマスを過ごそうとやってくる。
4、画家のヘンドリックレイも来る。彼は「私はこれを描いたネロという少年に、アントワープが世界に誇る大画家・ルーベンスの跡継ぎになり得る、恐るべき素質を見出しているのです」と絶賛。「彼を引き取って、できる限り絵の才能を伸ばしてやりたい」と決意を語る。
5、コゼツ旦那も「ネロが戻ってきたらわしのうちに迎えて、アロアと同じようにどんな勉強でもさせてやるつもりだ。それがせめてもの、わしの償いなんだ」と決意を語る。

おお、やったぞ、ネロ。放火の疑いは晴れ、ガールフレンドとのつき合いも認められ、生活と絵の面倒までみようという人が2人も!
まるで盆と正月がいっぺんに来たかのようだ。ベルギーのお話だけど。

フランダース図解

だが、吹雪のなかを歩くネロは、それを知らない。アントワープの教会に入ると、ルーベンスの2枚の絵を目に焼きつける。そして「これだけで僕は、もう何もいりません」と言うや、床に倒れ込んでしまう。
そこへパトラッシュもやってきて、2人は永遠の眠りにつくのである。
やがて、空から天使たちが舞い降りて、2人の魂を天国に連れていくのだった。ああ……。
「ネロとパトラッシュは、おじいさんとお母さんのいる遠いお国へ行きました。もうこれからは、寒いことも、悲しいことも、おなかのすくこともなく、みんないっしょにいつまでも楽しく暮らすことでしょう」というナレーションが入るが、NO~っ、全然ナットクできません!

悲劇は避けられなかったか?

あまりに悲しい話である。ネロとパトラッシュの死を回避する道はなかったのだろうか。
アロアの家で素直に食事をしていれば、旦那も帰って来て、ネロは死なずに済んだだろう。ヌレットおばさんも、ネロの後ろ姿を馬車から見かけたのに「ネロがこんなところにいるはずがないわ」といって、そのまま来てしまった。その思い込みが残念だ。村からアントワープまでは一本道だから、ヘンドリックレイもネロとすれ違ったはずなのに、気づなかったとは痛恨だ。

しかし、今さらそれを言っても仕方がない。筆者が「コイツがもう少ししっかりしていたら」と思うのは、ただ一点。それは、絵画コンクールの賞金システムだっ!
1等は毎年200フランで、2等以下は何もナシ――。あまりに極端ではないだろうか。
大手出版社でマンガ雑誌の編集をしていた友人に聞くと、マンガ新人賞の賞金は100万円が相場だという。そして、彼が担当した新人賞では、2位の2人に75万円、3位の2人に50万円、佳作の6人に10万円、奨励賞の10人に5万円を授与していた。
この場合、賞金総額は460万円で、1位の100万円はその22%を占めるにすぎない。若い才能を見出し、育もうと思ったら、やはりこのくらいの厚くて深い目配りをするべきだと思う。
ネロが応募したコンクールでも、200フラン=500万円を賞金総額として、先のマンガ新人賞と同じ比率で分配していたら、1等の賞金は110万円、2等のネロでも毎年80万円ずつを受け取れることになる。
これは決して、少ない額ではない。劇中、おじいさんの月入は2フランと言われていた。右のレートで計算すると、年収は60万円。それを少し上回る絶妙な金額なのだ。
ああ、絵画コンクールがこういう賞金システムだったら、すべては丸く収まったのになあ!【了】