赤ずきんちゃんタイトル

誰もが知っているグリム童話の『赤ずきん』だが、子どもの頃には怖かったなあ、この話。
特に、赤ずきんちゃんが食べられるシーンの怖かったこと!
それは、こんな場面であった。

赤ずきんちゃんがおばあさんの家へ行くと、先回りしておばあさんを丸呑みにしたオオカミが、おばあさんのふりをしてベッドに寝ていた。
赤ずきんちゃんはその正体に気づかず、オオカミとこんな会話を交わす。
「おばあさんの耳は、なぜそんなに大きいの?」
「おまえのかわいい声をよく聞くためさ」
「なぜそんなに目が大きいの?」
「おまえのかわいい顔をよく見るためさ」
「なぜそんなに口が大きいの?」
「おまえをばっくり食べるためさ!」

うわ~っ。普通の会話をしているように見せかけて、いきなり正体を現すとはあんまりだ!
こうして赤ずきんちゃんも丸呑みにされてしまった。
しかし、通りかかった猟師さんが、寝ていたオオカミのお腹をハサミで切って2人を救出。赤ずきんちゃんがオオカミのお腹に石ころをつめて縫い合わせたので、オオカミは死んでしまいましたとさ。めでたしめでたし。
う~む。無事に解決してよかったが、やっぱり怖い話である。

しかも、老女と幼女とはいえ、オオカミが人間を2人も丸呑みにできるのだろうか。このオオカミ、あまりにもデカくないか?

オオカミの大きさは?

オオカミに丸呑みにされるとは、身の毛もよだつ話だ。
しかし、これこそが、赤ずきんちゃんとおばあさんにとって不幸中の幸いだった。
肉食の哺乳類は、獲物に致命傷を与えると、前足で押さえつけ、牙で肉を噛みちぎって食べる。この当たり前の食べ方をされたら、猟師さんが通りかかったところで、2人に生還の道はなかったわけである。よかったなあ、丸呑みにされて。

そもそもオオカミとは、いかなる動物なのだろう。
百科事典によれば、かつてヨーロッパに棲息したのはハイイロオオカミ。10頭前後の群れを作り、シカやウシなどを襲うが、狙うのは子どもなど弱い個体。
なるほど、赤ずきんちゃんとおばあさんを狙ったのも、オオカミとしての習性だったわけだ。ナットクできますなあ。
また、群れには厳しい順位制があり、捕らえた獲物を食べる順番も、その順位に従うという。
筆者が思うに、劇中のオオカミは、かなり下っ端だったのではないだろうか。ボヤボヤしていると餌を上位の者に取られるから、急いで丸呑みにしたのではないかと想像する。

そして問題の大きさだが、ハイイロオオカミは最大個体でも、尾を除く体長が1・6m、肩高が97㎝、体重は82㎏。結構大きいが、それでも人間と同じくらいだ。
人間が人間を丸呑みにできないように、ハイイロオオカミも人間を丸呑みにはできないだろう。

だが、動物の習性を考える際に、人間の常識は通用しない。野生動物は、一度に大量の餌を食べるというではないか。次にいつ餌にありつけるかわからないから、食いだめをするのだ。
ところが調べてみると、その食事量は最大でも体重の5分の1程度だという。上の体重82㎏のオオカミの場合で16・4㎏である。
赤ずきんちゃんが6歳くらいだと仮定すると、日本人のその年齢の女児の平均体重は20㎏。うーん、赤ずきんちゃん1人だったら、もうムチャクチャがんばれば丸呑みできるかなあ……というレベルだ。

こうなるともう、『赤ずきん』のオオカミが並外れてデカかったと考えるしかない。
赤ずきんちゃんとおばあさんの体重が合計で80㎏あったとして、そこから逆算すれば、オオカミの体重はその5倍の400㎏を上回ったことになる。
通常のオオカミの体格から計算すると、体長2・7m、肩高1・7m。地上最大の肉食獣でグリズリーとも呼ばれるハイイログマでさえ体長2・5m。
それを上回る驚異の大オオカミだったことになる!

赤ずきんちゃんが不思議!

だが、ここまでの計算は、胃の容積だけを根拠にしたもの。胃がいくら大きくても、食道の直径が大きくなければ、丸呑みにはできないはずである。
しかしいろいろ調べても、オオカミの食道の直径がわからない。仕方がないので、自分の体験と比較しながら推測しよう。
筆者は20歳の頃、飲食店の「餃子60個を30分で食べたらタダ」という企画に挑戦して、ぎりぎり27分で完食したことがある。餃子1個は25gほどだから、1・5㎏を30分で食べたわけだ。
一方、体重82㎏のハイイロオオカミが満腹するのは、その5分の1の16・4㎏を食べたとき。忙しい野生の身でゆっくり食事を楽しんではいられまいから、ここは筆者と同じ30分で食べると考えよう。
人間の食道は、最大で直径3㎝に広がるという。ここから計算すると、最大個体のハイイロオオカミの食道は、最大10㎝に広がると考えられる。
おばあさんを丸呑みにするには、縦40㎝、横20cm、平均直径30㎝の食道が必要だろう。すると劇中のオオカミは、自然界のハイイロオオカミより3倍も大きかったことになる。すると、体長4・8m、肩高3m、体重2・2t。体重はカバとほぼ同じ。大きさはサイとゾウの中間くらい!

赤ずきんちゃん図解

ここまでデカいとなると、不思議なのは赤ずきんちゃんだ。なぜこんなに大きなオオカミを、おばあさんと間違えて、おめおめと近づいたのか?
赤ずきんちゃんも、おばあさんのベッドに寝ていたオオカミに対して、違和感を口にしてはいる。「なぜそんなに目が大きいの」「なぜそんなに耳が大きいの」と。
いや、そんな細かいことより、体全体の大きさがまるっきり違うでしょう、体全体の大きさが!
肩の高さが3mもあるオオカミが、おばあさんの家に入れたのも謎なら、ベッドがその体重2・2tを支えきったのも驚異。そして、猟師さんがこのオオカミの分厚い腹を切り裂ける巨大なハサミを持っていたのも本当に幸運だった。そんな大きなハサミを持って歩くのは、猟師さんというより、植木屋さんだと思うが。

赤ずきんちゃんの対処も、ああ見えて徹底している。通常、腹をかっさばいたら、動物はそれだけで死ぬと思う。わざわざ石を詰めて縫い合わせなくても……。
いや、彼女がそこまでやったからこそ、石に付着した細菌が、お腹の中で感染症を引き起こし、巨大オオカミの血統は途絶えて、われら人類は巨大オオカミの脅威にさらされずに済んでいるのかもしれません。ここは素直に、オオカミに呑まれるという試練を乗り越えて、オオカミにとどめを刺した赤ずきんちゃんに感服いたします。【了】