アリエッティタイトル

『借りぐらしのアリエッティ』は、メアリー・ノートンの児童文学『床下の小人たち』を、スタジオジブリがアニメ化したものだ。映画のキャッチコピーは「人間に見られてはいけない」。ひ~、そう言われるとドキドキしますな~。

もうすぐ14歳になる小人のアリエッティは、大きな古い屋敷の床下に、両親と住んでいた。彼らは、ときおり屋敷の台所や食堂に出かけていき、角砂糖1個、ティッシュ1枚……など、生活に必要なものを人間からこっそり借りて暮らしていた。ふむ、だから「借りぐらし」なのですね。
その屋敷に、心臓の手術を控えた少年・翔がやってくる。アリエッティは「人間に近づくな」という両親の教えを守り、初めは翔を警戒していた。
が、やがて彼の優しさに気づき、言葉を交わすようになり……と、お話を紹介したくなるが、筆者がやるべきはそれではない。

科学的に考えたとき、2人のあいだに会話は成立するのだろうか?
劇中、2人はごく自然に話していたが、アリエッティの身長は、翔の人差し指を少し上回るぐらい。ここまで体の大きさが違ったら、実際には声の大きさも違うのでは……という気がするのだが。

身長10㎝で出せる声の大きさは?

アリエッティの身長は、翔の指などと比べると、10㎝に少し足りないくらいだ。
日本人14歳女子の平均身長は150㎝台の後半だから、小人たちの身長は人間のおよそ16分の1ということになる。
すると、体の横幅も厚みも16分の1のはずなので、体重は16×16×16分の1で、4096分の1。14歳女子の平均体重は50㎏だから、アリエッティの体重はたった12gということになる。
これは軽い。12gって、小さめの消しゴムぐらいの重さなのだ。

これほど小さな体だと、アリエッティの声はムチャクチャ小さいのではないだろうか。
声の大きさは、肺から1秒に出される空気の量によって決まる。体重が人間の4096分の1のアリエッティの場合、肺の容積も4096分の1しかない。
だが、声はそこまでは小さくならない。体が小さければ、息を吐くのにかかる時間も短くなるからだ。
これらの事実から計算したところ、アリエッティの声の大きさは、人間の512分の1という結果になった。

512分の1だと聞こえないのでは?と心配になるが、実は大丈夫だ。
たとえば、ささやき声のエネルギーは、普通の会話で出す声の1万分の1。反対に、叫び声は普通の会話の1万倍もある。声というものは、もともとエネルギーに大きな幅があるのだ。
それらの差に比べれば「512」など、わずかである。
つまり、人間に比べれば512分の1も小さなアリエッティの声も、小人に比べれば512倍も大きな翔の声も、お互いの耳に何の問題もなく届いただろうと思われる。

◆アリエッティはキンキン声?

実は、筆者が気になるのは、アリエッティの声の「高さ」である。
人間の声は、次のようにして生まれる。
1.肺から出た空気が、のどの奥にある「声帯」という膜を震わせて小さな声を出す
2.小さな声が、のどや口や鼻の奥の空間で響いて大きくなる
3.口の形、舌、歯の配置を調節して「あかさたな」などの音声にする

これらの行程のうち②までは、ギターやバイオリンに似ている。
これらの弦楽器の音は、弦から出たときにはとても小さい。その小さな音が胴で響いて大きくなるのだ。バイオリンの仲間には、小さいほうから順に、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスがあり、大きなものほど低い音を、小さなものほど高い音を出す。
ここから考えれば、小さなアリエッティの口からは、普通サイズの人間よりも高い声が出るはずだ。

その声は、具体的にどのくらい高いのか?
楽器の場合、サイズが半分になると、出る音が1オクターブ高くなる。この関係は、人間と小人でも同じだろう。
アリエッティの身長は、われわれの16分の1である。サイズが2分の1だと、1オクターブ高くなる。その半分の4分の1で2オクターブ高くなり、そのまた半分の8分の1で3オクターブ高くなり、またまた半分の16分の1で4オクターブ高くなる。つまりアリエッティの声は、人間の14歳の少女より、4オクターブも高い!

アリエッティ図解

これは、なかなかすごい声である。ソプラノ歌手でさえ、出せる声の高さは、普通の女性と1オクターブ半しか違わない。
4オクターブも高いと、目覚まし時計などに使われる電子音の最も高いものと同じ!
もはや人間離れした高音である。
目覚まし時計の音があの高さに設定されているのは、人間の耳を強く刺激するからだ。
おそらく、アリエッティの声も、耳が痛くなるいキンキン声。彼女にいきなり話しかけられたら、さぞビックリすることだろう。
翔くんは心臓の手術を控えているのだから、あまり驚かせてはいけないと思う。

キョーレツに早口だ!

さらなる心配として、アリエッティはとっても早口だった可能性がある。
会話は、耳・目→神経→脳→神経→肺を縮める横隔膜・声帯・口・舌・歯などの連携プレーで行われる。身長10㎝のアリエッティは、神経の長さも短い。脳も神経の集まりだから、物事を考え、言葉を組み立てて発音するまでの時間も短いはずだ。
身長が16分の1だと、それはどれほど速いのか。
神経の情報の伝わり方には「1本の神経を伝わる」「神経から神経へ伝わる」の2段階がある。1本の神経を伝わる時間は身長と同じ16分の1。神経から神経へ伝わる時間は「身長×身長」に比例する256分の1。
この2つを総合すると、情報が伝わる時間は73分の1になる。情報伝達速度は人間のなんと73倍!

つまりアリエッティは、人間の73倍も速く頭が回転し、73倍も早口だった可能性がある。
たとえば翔が「いくつ?」と平仮名3文字の言葉で話しかけると、それとまったく同じ時間で「あたし明日で14歳。生まれてから3回の閏年があったから今日までで5133日生きてきたのね。ああ短いようで長かったあたしの4億4176万3200秒。1秒たりともおろそかにするなって言葉があるけどそんなに緊張した1秒を4億4176万3200回も送れないわ。1秒たりともおろそかにしてはいけないと考えるのに3秒ぐらいかかるわけでそれこそ人生最大のムダよ」と平仮名にして219文字くらい喋ることになる。ひえ〜。
アリエッティの声は、大きさは気にならないが、モーレツに高音で、キョーレツに早口かも。こんなヒトときちんと会話できる翔くんはエラいなあ。【了】