ワートリタイトル

『ワールドトリガー』はいいマンガだなあ。ストーリーもキャラクターもアクションも、とても丁寧に描いてあって、読みながら「えーと、これどうなってんの?」などと考え込むことがない。壮大なSFなのに安心して楽しめる、というのは、読解力に欠ける筆者にはとても嬉しいことであります。

4年前のある日、この地に異世界への門(ゲート)が開いた。
その門から送り込まれたのは、見たこともない巨大な怪物たち。異世界に住む「近界民(ネイバー)」が、こちら側の世界を侵略するために送り込んできたものだった。怪物には通常兵器が効かず、被害は拡大する。
そのとき、謎の集団が現れ、怪物を撃退した。彼らこそ、界境防衛機関「ボーダー」だった。彼らは以前から近界民の存在を把握していて、戦う準備を整えていたのだ。

ボーダー隊員たちの装備している武器が「トリガー」である。この特殊な装置は、使用者の体を頑強な戦闘体に変え、同時に剣・銃・盾などの武器を使用者に与える。
トリガーのなかでも空閑遊真(くがゆうま)の持つ黒(ブラック)トリガーは絶大な威力を誇る。町に体高数mの怪物バムスターが出現したとき、遊真はトリガーの機能の1つ『弾(バウンド)』印を発動させ、飛び蹴り一発で、巨大な怪物を倒してしまった。
このトリガーを使ったキックは、いったいどれほどの威力だったのか?

トリガーとは何か?

『ワールドトリガー』の作品世界において、トリガーとは次のようなものらしい。
人間は誰でも、心臓の横に「トリオン器官」という臓器を持っていて、そこで「トリオン」という生体エネルギーを作り出している。この架空の医学的設定が、作品世界の根幹になっている。
そしてトリガーという装置は、使用者のトリオンに働きかけることで、次の2つの機能を生み出す。
1. 使用者のトリオンから、生身の体とは別個の戦闘用の体(戦闘体)を作り出す。この戦闘体がいくらダメージを受けても、生身の体には影響しない。
2. トリオンから銃や剣などの武器を生み出す。
トリガーの実体はサイズ数㎜の小さなチップで、拳銃のグリップのような形状をした「トリガーホルダー」に、最大8つまでセットできる。どのトリガーをセットするかで、出現させられる武装と戦い方が決まる。

以上は、一般のボーダー隊員が持っている通常のトリガーの説明だ。遊真の黒トリガーは、彼の父親が瀕死の息子を救うために、自分の命と引き換えに作ったものだ。そのため、威力は通常のトリガーとはケタ違い。形状も、チップではなく指輪の形をしている。
遊真がトリガーを起動させると、ウサギのような姿をした「レプリカ」が出現する。レプリカは遊真のお目付役で、遊真の左手と一体化して動き、事あるごとに助言をしてくれる。
また、遊真が指示すると、レプリカの背中に『弾』『強(ブースト)』『盾(シールド)』などの印が現れ、それらを選択することでさまざまな攻撃と防御が行える。

最初の戦いで発動させたのは『弾』だった。レプリカの背中に『弾』の印が浮かび上がると、地上の都合のいい場所に『弾』の印を出現させられるのだ。
そして、地上の『弾』の印を遊真が踏むと、まるで超小型かつ超強力なトランポリンで跳ねたように、自分の体を高速で跳躍させることができるのだ。
怪物バムスターと戦ったときは、遊真は『弾』の印を踏んで大ジャンプ! 体は超高速で一直線に飛んでいき、巨大なバムスターをぶっ飛ばした。

月まで跳んでいける!

このとき遊真は、どれほどのキックを見舞ったのだろうか。
怪物バムスターは、イモムシとゾウを合体させたような姿をしている。その体高はマンガのコマで測定すると、7・5mほどもある。マンガでは全体像が描かれていないが、頭部とのバランスから、体の全長はゾウの2倍くらいありそうだ。アフリカゾウの体重は最大で10tだから、これらをもとに計算すると、バムスターの体重は99t。そんなヤツを蹴っ飛ばしたの!?

遊真に蹴られた直後、バムスターの体は、45度ほど傾いていた。ここからわかるのは、遊真がキックの衝撃で、バムスターの体を時速20㎞で突き動かしたということだ。
これは実にオソロシイ話だ。
軽い物体がぶつかって、重い物体を動かすのは大変なことである。遊真は中学3年生にしては小柄で、公式発表で身長1m41㎝。小学生の平均体格から計算すると、体重は35㎏ほどと考えられる。遊真にとって、バムスターの体重99tとは、自分の2800倍も重いわけだ。
これを蹴って、時速20㎞で動かすには、その2800倍のスピードでぶつかる必要がある。すなわち時速5万6千㎞! マッハ46!

ワートリ図解

地球上でマッハ33以上の高速を出すと、地球の重力を振り切って、宇宙へ飛んでいってしまう。マッハ46はこの「第2宇宙速度」をはるかに超えているから、つまり遊真は、その気になれば『弾』を踏んで月まで跳べるということだ。黒トリガーの力、恐るべし!

ものすごい加速度だ~!

この『弾』というトリガー技について、作者の葦原大介先生は、コミックスの解説ページで次のように説明されている。
「物体を弾いて撥ね跳ばすことができる。自分でも他人でも物での何でも跳ばせる。生身の人間だと加速度で死ぬ」。
加速度で死ぬ!? これはいったい、どういうことだろうか。

加速度というのは、一定時間に速度がどのような勢いで変化するかを表したものだ。自動車が急発進するときは、短い時間で速度が速くなるので、加速度が大きいことになる。
われわれがよく経験する加速度に「重力加速度」がある。地球上で物体を落下させると、1秒ごとに秒速9・8mずつ速くなる、というものだ。2秒後には秒速19・6m、3秒後には秒速29・4mに達する。この落下のときの加速度を重力加速度といい、「G」という単位で表す。 
車が急発進すると、体がシートに押しつけられるように、大きな加速度で運動すると、そのGの値に応じた力を受ける。
遊園地の絶叫コースターで乗客にかかる加速度は最大6G程度。これは、体重の6倍の力を受けるということだ。戦闘機のパイロットで最大9G。そして人間は、10G以上の加速度で失神するといわれている。

では、バムスターをキックで倒したとき、遊真が受けた加速度はどれくらいだろう。
遊真が『弾』の印を踏んだとき、腰を30㎝落としたとすれば、印を踏んでから飛び出すまで0・000038秒。この短い時間に、マッハ46に達したとなると、その加速度は4千万G!
つまり遊真の体には、自分の体重の4千万倍の力がかかったわけだ。
その力とは、35㎏×4千万=140万t! 東京スカイツリー40本分が乗っかったのと同じだ。
生身の体だと、間違いなく全身が圧壊する。葦原先生のおっしゃるとおり、生身の人間なら確実に死ぬでしょう。

体重99tの敵を蹴っ飛ばすために、わが身に140万tの力を受けた空閑遊真。なんだか割に合わない気もするが、これに耐え抜くとは、トリオンでできた体はよほど頑丈なのだろう。
もしあなたが道で『弾』の印を見つけても、決して踏まないように注意しよう。体がツブれるよ。月まで行っちゃうよ!【了】