テニプリタイトル

『テニスの王子様』と続編『新テニスの王子様』には、超絶ワザが続々登場する。
検証したいワザはいくらでもあるが、ここではそのひとつ、平等院鳳凰の「マトリョーシカ・オブ・ロシア」を紹介しよう。
そのワザとは……わははははっ、書く前から笑ってしまったが、これにはもう完全に腰が抜けますぞ。

それはテニスのワザなのか?

マトリョーシカ・オブ・ロシアが炸裂したのは、テニスコート上ではない。
U-17世界大会を前に、日本代表のメンバーはハワイにいた。この常夏の地で、監督・三船入道は選手たちに命じる。
「日本男児たるもの金髪女に気後れする様では世界は獲れん! このビーチの女を軟派してワシの所に連れて来い」。
中高生にナンパを強要!? なかなかとんでもない監督ですなあ。

こうしていきなり始まった、日本代表の高校生vs中学生によるナンパ合戦。
高校生が5−4のリードで迎えた最終決戦に登場したのが、日本代表No.1の平等院鳳凰であった。
平等院は1組のカップルに近づくと「この女は貰っていくぞ」といって女性の手を取り、平然と引っぱっていく。
当然、カップルの彼氏は大激怒。ロシア語でまくし立てながら、拳銃を構えて安全装置を外す。その彼氏は、ロシアのマフィアだったのだ!

ところが、平等院は慌てず騒がず、どこからともなくテニスラケットとボールを取り出すと、「マトリョーシカ・オブ・ロシア!!」と叫んで、マフィアに向かって強烈なサーブを放つ。
飛んでいったボールは、飛びながら上下にパカッと開き、中からひと回り小さなボールが飛び出した!
そのボールも次の瞬間には上下に割れ、中からまた、ひと回り小さなボールが!
こうして、ボールからは次々にパカパカと割れ、そのたびに小さいボールが飛び出して、割れたボールは空中に6個、整然と並ぶ。
そして最終的には、ビー玉くらいのボールが相手の拳銃の銃口にポコとはまり、拳銃は暴発するのだった……!

うはははは。ついに『テニプリ』もここまで来たか!という怪現象である。
あまりにオモシロイので、これはもう科学的に徹底検証するしかあるまいっ。

誰が作ったんだ、そのボール!?

劇中の人物も解説していたが、「マトリョーシカ」とはロシアの有名な民芸品だ。
よくあるのは、民族衣装を着けた少女の木製人形で、日本のこけしにも似ている。特徴は、人形の中に小さな人形が入っていて、さらにその人形にも小さな人形が入っていて……という「開けても開けても構造」になっていること。
だからこそ平等院は、このワザに「マトリョーシカ」の名をつけたわけですね。なるほどぉ。

感心している場合ではない。マトリョーシカと同じ仕組みの6重構造テニスボールなど、平等院はどこから調達したのだろう? 市販されているとは思えないから、自分でチマチマ作ったのか? それともボールのメーカーに発注したのか?
どちらにせよ、そんなボールがあったとしても、空中で次から次に内側のボールを飛び出させつつ、6個を一列に並べることなんて、できるのだろうか。

マンガの描写を観察する限り、ボールにバネなどを仕込む余地はない。
それでもパカッと開いたということは、平等院は、飛んでいくときに正面から当たる風の力を利用したのだろう。
筆者の見るところ、そのメカニズムは次のとおりだ。
1)いちばん外側のボールに、風が正面から当たる。
2)その風はボールの割れ目から入り込み、風圧で内側から上下に押し上げる。
3)開いたボールは、さらに強い風を受けてスピードを落とすが、内部のボールは、そのまま飛び続ける。
4)次の瞬間には、その内側のボールにも正面から風が当たって、割れ目にも風が入り……という動きが繰り返された結果、空中に、割れたボールの列ができるのだっ!

テニプリ図解

筆者は実験してみました

「できるのだっ!」と力強く書いてしまったが、本当にそんな現象が起こせるのだろうか?

それを検証するため、100円ショップで大小のビニールボールを買ってきた。
大きなボールを一部分だけ残して2つに切り、ひと回り小さいボールを内部に入れる。
平等院によりずっとシンプルな二重構造だが、柳田理科雄謹製マトリョーシカボールの完成です。

さあ、投げてみよう。切り口を前方に向けて思い切り投げると……あれ、パカッと割れない!
2つのボールは、一体化したまま飛んでいくよ〜。
なぜだ!? これでは、ボールを壊してしまっただけのマヌケな人である。筆者が投げるぐらいの球速では、ボールが開くほどの風の力は生まれないということだろうか?

その可能性はあると思う。
作中のマトリョーシカ・オブ・ロシアの描写を見ると、ボールは5mほどの距離を一直線に飛んでいるのだ。これは、並みのスピードではない。
だが、エンジンがあったり、翼で風に乗ったりしない限り、地球上ではどんなスピードで飛ぶ物体も少しは落ちる。平等院のボールも、相手に届くまでに5㎜くらいは落ちたと考えよう。
その場合、この球のスピードは時速564㎞。現実のテニスのサーブでは、オーストラリアのサミュエル・グロス選手が打った時速263㎞が最高なのに、その倍以上!
なるほど、これぐらいの球速があれば、ボールも景気よくパカパカ開く……のかもしれない。推測だけど。

何のために身につけた!?

科学的に探究すればするほど、マトリョーシカ・オブ・ロシアには驚かされる。
テニスボールがよく跳ね返るのは、厚さ3・2㎜のゴムに空気が入っているからだ。
ところが、平等院のマトリョーシカボールには、切れ目が入っているのだから、空気の弾力性は活かせない。そんなボールで、時速564㎞ものスピードを出したとは!

しかも、マンガのコマを見ると、割れた6個のボールはすべて正面を向いている。
これは、ボールがまったく回転しなかったということだ。
現実のテニスにも、ボールの回転を抑える「フラットショット」という打ち方があるらしいが、まったく回転しないわけではないようだ。

なのに、マトリョーシカ・オブ・ロシアは完璧に無回転。
そんなボールを打つには、通常とは根底から違う特殊なフォームが必要だろう。
平等院は、それを身につけたのだろうか? いったい何のために? 
もちろん、マトリョーシカ・オブ・ロシアを打つためだ!

言うまでもないが、こんなヘンなボールを試合で使ったら、反則である。
つまり、試合では一度も使う機会はないワザであり、平等院鳳凰はそんなものまで会得しているのだ。高校テニス界における恐るべき実力者ですなあ。【了】