ジェットスクランダー

筆者がいちばん胸を躍らせたロボットは、マジンガーZであった。
何がよかったかというと、マジンガーZが、敵の機械獣に敗れたり、辛勝しながらも傷ついたりするたびに、光子力研究所の弓教授や、三博士と呼ばれる老科学者たちの手によって、強化されていくことだ。マジンガーZに乗り込んで操縦する主人公・兜甲児も、ともに成長していく。最初から無敵なのではなく、人の頭脳と勇気を加えることで、どんどん強くなる。ああ、わが青春の、鉄の城よ!

マジンガーZは、最初は空を飛ぶこともできなかった。
それはある意味当然で、原作者の永井豪先生がタクシーに乗っているときに渋滞に巻き込まれ、「このタクシーがロボットになったら、ズシンズシン歩いて、前の車を追い越していけるのに」と考えたのが『マジンガーZ』の出発点だから……というのは、制作上の裏話。
劇中では、空を飛べなかったマジンガーZが、飛行能力を持った敵ロボットに苦戦し、途中から飛ぶ力を手に入れた。この流れは、成長するロボット・マジンガーZに、この上なくふさわしいものだった。
マジンガーZが飛べるようになったのは、テレビアニメの第34話。弓教授が開発したジェットスクランダーのおかげである。
当時、正座して『マジンガーZ』を見ていた中学生の筆者が大コーフンしたのは言うまでもない。

合体しても大丈夫?

ジェットスクランダーは、短い機体の両側に長い翼がついていて、ジェットエンジンで飛行する。カタパルトから発射され、ジャンプしたマジンガーZの腰に、機体の胴体部分が装着される。
要するに、翼だけが飛んでくるので、地上のマジンガーZはジャンプして、それを身に着ける、というわけだ。

この大空羽ばたく紅の翼を初めて見たとき、中学生の筆者は胸の底から感動した。そして、いつかは自分もジェットスクランダーを作り、大空へ飛び立つのだ、と心に誓った。若かったなあ、あのころは……。
だが、ジェットスクランダーの開発を現実問題として考え始めた筆者の脳裏には、同時に疑問も生まれた。
それまで単独で飛んでいたジェットスクランダーに、体重20tのマジンガーZがいきなり合体したら、墜落してしまうのではないだろうか。

だが、高校に入って物理を勉強すると、疑問は氷解した。
ジャンプしたマジンガーZは、何の力を加えなくても、そのまま放物線運動を続ける。ジェットスクランダーが同じ軌道を描きつつ合体すれば、かかる荷重はゼロなのだ。
そこから出力を上げていけば、マジンガーZは放物線から少しずつ外れていく。それに伴って、ジェットスクランダーには徐々にマジンガーZの体重がかかり始める。
つまり、20tの体重は、いきなりかかるのではなく、滑らかな曲線を描いてかかっていくのだ。高校物理のおかげで、筆者の迷妄は啓かれたのである。疑ってすいません、弓教授。

しかも、エンジンのパワーたるや、目を見張るものがある。戦闘機のような流線型の機体ならともかく、空気抵抗のかかりやすい人間形のマジンガーZを、マッハ3で飛ばすというのだから。
これを可能にする推進力を計算すると、300tである。体重を15倍も上回るのだから、垂直離陸はもちろんのこと、逆噴射で着陸することも朝飯前だろう。離着陸に関しては、まったく問題ないということだ。スバラシイな~。

そして、出力を計算すると430万馬力。マジンガーZは65万馬力だから、ロボット本体の6倍以上も強力だ。
ここまで強力なエンジンとなると、弓教授に進言したくなる。そのエンジンをマジンガーZに搭載すれば、地球の平和は飛躍的に安泰となるのではないでしょうか……?

飛びながらロケットパンチ!

夢の翼・ジェットスクランダーは、マジンガーZの戦闘力をも大幅にアップさせる。

たとえば、ロケットパンチ。肘から先が飛んでいき、敵の体を貫通して戻ってくるという、マジンガーZの代名詞ともいうべき技だ。その速度はマッハ2だが、ジェットスクランダーで全力飛行中に打てば、飛行速度のマッハ3が加わってマッハ5となる。運動エネルギーは速度の2乗に比例するので、速度が2・5倍になると、破壊力は6・25倍に激増だあ!
ただし、振り向きざまに打つと、マッハ2ひくマッハ3でマッハマイナス1。
すなわち、自分をマッハ1で追いかけてくるため、敵には決して当たらないばかりか、スピードを緩めると自分に当たってしまう。そして、どの方向であろうと、飛行中に打つと、ロケットパンチが追いつけず、戻ってこない。ああ、ジェットスクランダーと合体したいま、ロケットパンチは宝の持ち腐れ……。

さらに、飛行中に決して放ってはならないのはルストハリケーンだ。これは、口から強酸を噴霧して、敵の体を腐食させるという画期的な技だが、強酸なんぞ吹き吹き空を飛ぶと、風圧ですべて自分が浴びてしまう!

こうなったら、マジンガーZは、飛行中はそうした本来の武器を封印し、その辺の瓦礫を拾って投げつけてはどうか。それだけで、マッハ3というライフル弾なみの速度で飛んでいくのだから、敵にとっては脅威である。

それだけはやめてほしかった!

かくて、ジェットスクランダーによって、空をも戦場とするようになったマジンガーZ。
だが操縦者の兜甲児は、この自由の翼をとんでもない形で戦闘に使ってしまった。その名は、スクランダーカッター。なんと、ジェットスクランダーの翼で、敵を切断したのである!

翼で飛ぶロボットが、好んで翼を他の物体に接触させるとは、あまりの乱暴狼藉。通常の飛行機だったら、一瞬で空中分解する。
ジェットスクランダーは超合金Z製だから壊れはすまいが、だからOKというわけにはいかない。
どんなに鋭い刃物でも、物体を切断するには力が必要だ。その力は、反作用となって、自分自身に帰ってくる。
つまり、翼の片側だけにブレーキがかかり、マジンガーZとジェットスクランダーは、右か左に回転してしまうのだ。

敵の機械獣が、最も頑丈な鋼鉄と同じ強度を持っていたとしよう。
機械獣もロボットだから、内部は複雑な構造をしているはずだが、ここでは、切断する厚さを合計1mだと仮定しよう。切断幅が5mだとすると、ジェットスクランダーがどんなに鋭利でも45万tの力が必要だ。すなわち、受けるブレーキ力も45万t!
ジェットスクランダーの重量が10tあったとしても、マジンガーZと合わせて30tでしかない。自重を1万5千倍も上回るブレーキ力を、翼の片側だけに受けたりしたら、猛烈な回転が始まってしまう。その力が、翼の中心から8mの位置に働いたとすると、回転の勢いは毎秒32回転。紅の翼を背負った鉄の城は、火を噴く巨大ブーメランとなってどこへともなく飛んでいく……!

ジェットスクランダー図解

マジンガーZの頭に乗った兜甲児には、重力の160倍という強烈な遠心力がかかる。
もはや、ドーム状の窓の天井に張り付いて失神。当然ながら操縦不能……。
ああ、なんで敵を切るのに使ってしまったかなあ!
筆者としては、せめて安全な地域に落下してくれることを祈るばかりである。【了】