web用ペガサス流星拳タイトル画

『聖闘士星矢』は、ヒジョ~に筆者好みのマンガである。
ものすごい必殺技が登場して、その原理や数値が積極的に示されている。やっていることはムチャクチャなのに、科学的な裏付けがある! こういうのが大好きだ。
魅惑の一例として、ここでは「ペガサス流星拳」を取り上げよう。
主人公・星矢の放ったこの必殺拳は、筆者の好み云々を超えて、マンガ史に深く刻まれるべきオドロキのパンチである。

1秒間に85発の連打!

ペガサス流星拳の原理について、星矢を指導した白銀聖闘士(シルバーセイント)の魔鈴(マリン)はこう説明していた。

宇宙は百五十億年前に 一つの塊から爆発によって誕生したのさ!!
いわばお前の肉体も 爆発によって生まれた小宇宙のひとつなのよ!!
真の聖闘士は その小宇宙を爆発させることによって
超人的な力を生みだすんだわ!!
そして大地を割り 星を砕くのさ 
星矢おまえの小宇宙を爆発させてごらん!
そして自分の拳を流星と化すのよ! 流星と………

う~む、何を言ってるか、わかるような、わからんような。いや、やっぱり全然わかりません!

説明にある「百五十億年前の爆発」とは、宇宙の始まりのビッグバンのことだろう。地球も星も生き物も、もちろん星矢も、確かにビッグバンから生まれた。そこまではナットクできる。
でも、その小宇宙をどうやって爆発させ、パンチに活かすのか?
理解できない筆者を置き去りにして、星矢はペガサス流星拳を編み出し、しかもその威力を増大させていく。

ペガサス流星拳の威力を明確に述べたのは、白銀聖闘士シャイナである。この美しい女性聖闘士は、星矢が放ったペガサス流星拳を軽くかわして、こう言ったのだ。
「お前の繰り出す拳の一つ一つがはっきり見えるわ!! しかもパンチの数までも! 1秒間に85発!」。
えッ、1秒間に85発! それはすごい。それだけのパンチを打てる星矢もすごいが、1秒間に85発のパンチを数えているシャイナさんも。

シャイナによれば、彼女を倒すには1秒間に100発のパンチが必要であり、しかしそれは音速を超えなければならないため、生身の人間には不可能だという。
このあたりの、具体的な数字が示されながらも、それが説得力につながるかどうかビミョーな点が、本作の得も言われぬ味わいですなあ。

ついに音速を突破、そして……!

ところが、星矢はその不可能を可能にした。ペガサスの聖衣(クロス)を身につけ、魔鈴と特訓し、小宇宙を高め、シャイナと再戦。
そのとき星矢が放ったペガサス流星拳は、シャイナには見えなかった。つまり、毎秒100発&音速の壁を超えたのだ!

このとき、星矢が放ったパンチは、マッハ1だったことが劇中で明らかになっている。マッハ1とは、気温15℃のとき、秒速340m=時速1224㎞。プロボクサーのストレートが時速40㎞といわれるから、その30倍だ。

ペガサス流星拳の威力増大は、それだけではなかった。黄金聖闘士ジェミニとの戦いで、恐るべき発展を見せたのだ。
星矢が放った渾身のペガサス流星拳を見切りつつ、ジェミニはつぶやく。
「何か今、星矢の流星拳の速度が高まったような気がしたが……マッハ1、マッハ10、マッハ35、マッハ120」。
あの~、ジェミニさん、落ち着いてパンチの速度を測定している場合ではないと思うんだけど。

マッハ1を元にして計算すると、その破壊力は、マッハ10で1千倍、マッハ35で4万2875倍、マッハ120で1728万倍……と、ウナギ昇りに上昇中のはずなのだ。
そして、ついにジェミニは驚きの言葉を口にする。
「うっ バ…バカな 流星拳が無数の光に変わった これは光速拳!!」。
なんと、星矢のパンチが光速に達した!? 
それはあまりにオソロシイことだ。アインシュタインの相対性理論によれば、拳のように重さを持つものが、光速に達することはないはず……などと科学の常識に則っている場合ではない。ペガサス流星拳が、劇中の事実として光速に達しちゃったとしたら、そのスピードは秒速30万㎞=マッハ88万1742だ! さっき驚いていたマッハ120から、いきなり7千倍も速くなっている!

「1秒間に100発のパンチにはマッハ1が必要」というシャイナの言葉から計算すると、マッハ88万1742のパンチとは、1秒間に8817万4200発! 日本の人口は1億2700万人(2017年)だから、単純計算すれば1.4秒で日本人全員をぶん殴れるスピードということだ。

web用ペガサス流星拳図A1

そして、破壊力はマッハ1のときの68京5528兆倍。数字だけで書くと、685528000000000000倍!

こんな恐ろしいパンチを食らったジェミニがどうなったかというと、ぶっ飛んだだけ。うわー、意味がわかりません!
ペガサス流星拳はオソロシイ。対戦相手たちも、それに劣らずオソロシイ。何より『聖闘士星矢』という作品自体があまりにすごくてオソロシイ。【了】

本文・柳田理科雄
イラスト・近藤ゆたか